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1, 目覚めたら

「くっ…!?」


身体中の痛みと倦怠感で目が覚めた。徐々に覚醒していく意識に反して、痛みと悪寒が全身を襲う。


「……ここ、は?」


身体を起こそうと力をいれるが上手くいかない。どうやら石畳みに寝転がっているようで、石の冷たさのせいでかなり体温を奪われていた。そのせいか、指先一つ動かすのが億劫になっている。


辺りを見回すと床と同じで石の壁が目に入る。


「……なんだ?」


さっきから頭の中がぐちゃぐちゃに混乱して、思考が上手くいかない。自分ともう一人の自分が混在して溶け合っているかの様だ。


気持ちを落ち着かせながら必死に思い出そうとする。


「たしか…」


地下の遊歩道を歩いていた時に、地下道に備え付けてある蛍光灯の一つが目の前で輝いて弾けた。その後の記憶が無い。思い出そうとすると、別の自分の記憶が蘇ってくる。


自分が何故こんな所に居るのか、どうして身体が不調を訴えるのか、徐々に思い出していく。


それは5年前に、両親や姉、村の仲間達、全てを殺されて自分一人が奴隷となって此処に居る。その事が思い出してくる……


……だが、果たしてそれは自分の事なのか?


会社からの帰り道、地下道を歩いていたはずなのに、両親と姉?……俺は物心ついた時には祖母に育てられていた。兄弟は居ない。なのに、なんだ?この記憶は……


混乱する頭を整理するのに必死すぎて体調不良も忘れてしまっている、そんな時に何者かが近づいて来て手枷足枷と鎖で繋ぎ始め、終わると数人に引き摺られて部屋から移動を始めた。


石畳みの暗い道をしばらく引き摺られて外へと出て眩しさの為に目を瞑ってしまう。強引に身体を持ち上げられ目を開けると、檻で囲まれた荷馬車に放り込まれ衝撃のせいで思わず声が出てしまう。


檻の中には子供が一人と大人の男性が二人に女性が一人が居た。


「それでは任せるぞ。」


「へい、畏まりました。」


檻の扉が閉まり施錠されると荷馬車が動き出す。


上体を起こして檻の壁に背を預ける。身体の痛みはほとんど感じない。ただ倦怠感があるのみで、その理由も思い出してくる。もう何日も食べ物を与えられていない。空腹も限界を超えると意識しなくなるようで、ただただ身体が重く怠くて思考も働かない。


さっきまでは自分が分からなくて混乱していろいろと頭を使っていたが、今ではどうでもよくなり座っているのも苦痛でずりずりと横になった。


門を抜け、街中も抜けて街道まで出て来る。






いつの間にか眠っていたようで、周りの騒がしさで目が覚めた。


どうやら5匹のオークに囲まれているようだ……オーク?なんだそれ……


もう一人の自分の記憶が蘇ってオークと言う魔物を理解する。2~3mの上背がある豚に似た化け物。怪力で脂肪にしか見えない身体は強靭で鈍らな剣では傷も付かないだろう。


「ちくしょう!」


悪態をつきながら御者をしていた男が檻の鍵を開けて入って来て女の髪を掴んで引き摺り出していく。


「い、いや。いやーーっ!」


女は抵抗するが構わずオーク達へ放り投げられた。


「ひぃーーっ!」


檻の鍵を閉めるのももどかしい様子で荷馬車を走らせようとするが、別のオークの体当たりで荷馬車がひっくり返った。檻の中はひっちゃかめっちゃかだ。


御者の男は既に頭を潰されていた。二匹のオークは放り込まれた女に夢中で、他のオークが檻を揺さぶっている。他の連中はパニックになって檻から這い出し逃げ惑う。それを甚振るオーク達。


俺はそんな光景を目にしながら、意識を手放して眠りについた。






揺れのせいで目が覚める。


今度は幌の被った馬車の中のようだ。


「おっ?目が覚めたかい。」


声のする方に視線をやると、革の鎧を着た女が俺を見下ろしていた。その横にも革の鎧を着た男が座っている。


「ほれ、飲みな。」


上体を支えられて起こしてもらい、皮袋に入った水を飲ませてもらう。いつ以来だろう、喉を通り胃に入って来る刺激にむせてしまった。呼吸困難で死にそうになりながら必死に息をして落ち着かせようと努力した。


「慌てなくていい。」


そう言いながら背中をさすってくれる。その顔はとても優しげだ。


俺が目覚めた事で一旦馬車が止まり、休憩と食事をする事になった。干し肉と何かが溶け込んだ粥を渡され、久しぶりに胃に食べ物が入っていく。もっと食べたい気持ちがあるが胃が受け付けないのか、半分も食べたら手が止まる。


「無理しなくていい。また時を置いて食べたらいいから。」


その声を聞きながら、水を口にした頃には疲労と胃の消化活動のせいで、また眠りについた。


馬車での移動は3日ほど続き壁で囲われた大きな街についた。


体調もましになり自力で歩く事が出来るまでに回復し、道中では随分と世話になった。彼等は冒険者で依頼の帰り道で俺を拾ってくれたようだ。


どうして俺だけ生きていたのか、檻の中で意識をなくし見向きもされなかったのだろう、と冒険者の女が言っていたが定かではない。


門を潜り直ぐの建物で馬車は停止する。馬車から降りてぞろぞろと建物の中に入ると、そこは酒場と役場が混在した場所、俗に言う冒険者ギルドだ。酒場を横切り役場のカウンターみたいな所に近づいて行く。


「拾ってきた。」


冒険者の女が受け付けに話し掛けている間に、連れの男達に促されて作業場に連れて行かれる。そこの職員に話し俺の手足にある鎖と枷を外し始める。自由になった手首や足首を摩りながら確認すると血は出ていないが裂傷で赤くなっている。


職員が傷薬を塗って布を巻いてくれる、それをぼんやりと見ていた。女冒険者と女職員とに呼ばれてカウンター奥の部屋に連れていかれ、会議室の様な部屋に入る。薦められるままに椅子に座ると対面に女職員も座る。女冒険者は入り口の壁に背を預け腕を組んでいる。


「大体の状況は聞きました。あなたの素性がはっきりしないのですが、名前を聞かせてください。それとここに手を乗せてください。」


女職員はボーリングの球の様な塊を指差して言ってくる。それに右手を乗せた、が何も起こらない。女職員はしばらく黒い球を見ていたが怪訝な顔をして俺と球を見比べ、今度は自分の手を乗せていた。そうすると球に文字が浮かびステータスが表示される。もう一度と言う女職員の言葉に球に手を乗せるが、なんの反応もしない。


今の俺ならその理由は理解出来ている。


俺はこの世界では異物な存在だ。魔法の根源、世界に満ちるマナが俺には存在しない。多分、身体の作りも違うだろう。


もう一人の自分が5歳の時に脳内で告知を受けた。今なら意味を理解するが、当時の自分、ましてやこの世界の住人には理解出来ない事を聞かされた。それはゲームの様なシステムメッセージだった。


転移物、転生物と言う異世界物語。ふざけた話だ。


今の記憶と言うか本当の自分が蘇った時に、不可解だった事を理解する。この世界の文明は歪に進化している。中世以下の科学知識なのに生活レベルはそうでもない。全てはマナありきの世界だと認識出来る。例えばこの黒い球がそうだ。紙もなく革皮脂を使用しているのに住民登録は漏れが無い。


5歳で住民登録をするのにこの球が使用され、犯罪歴まで上書きされていく。他にも魔法的な力で管理された世界なのに、ゲームの様な魔法が存在しない。魔導師と呼ばれる者は触媒となる杖が必要で、その触媒にも位階があり高出力の魔法は位階の高さに比例する。


なぜなのか、それは俺にはわからない。


俺が5歳の時に黒い球に触れた時にメッセージがきた。俺にはマナが存在しない、と。その為住民登録は出来なかったがゲームに存在する物が利用出来た。だが、あの時は理解出来ない物で、ただただ便利ぐらいの気持ちで使用していた。


俺の育った村では、神童だの賢者だのと持て囃されていたが、結局はこの有様だ。現代の俺の記憶があれば、もう少しマシな使い方や考え方をしたかもしれない。……と思わなくもない、が多分無理なのだろうな。


力や能力を使う、知られた時点で詰んでしまう。結局、今の状況は変わらないだろう。


俺が鎖につながれていたのも隷属の魔法が掛からないからだし、住民登録をしたくてもマナが無いから魔法が起動しない。もっと言えば、俺には魔法が通用しないし魔法の道具も利用出来ない。


しばらくして、諦めた様な顔をした職員が


「お名前と出身地を教えてください。」


名前。もう一人の自分には「アラン」と言う名前があった。だが今は自分の事を思い出した。俺は「池中 聡太」と言う名前がある。こんな、訳の分からない世界で付けられた名前などに価値は無い。俺を売って死んだ奴ら(家族)が付けた名前など、記憶から消し去りたい。


「ソウタ…です。」


「出身は?」


「……わか、らない。」


困った顔をしながら、職員は女冒険者の方を見るが女冒険者も首を振るだけで答えはない。


しばらく思案していた女職員が


「住民登録が無いと処理できません。申し訳ないけど、領主様に報告して指示を仰ぎます。拘束するけど我慢してください。」


そう言って職員はベルを鳴らすと部屋に衛兵が二人入って来て拘束された。抵抗する気もないので素直に従い衛兵詰所の牢まで移動する。


それから3日ほど尋問を受けたが、「覚えていない。」としか言わなかった。


俺が捕らえられていたサルヴァーテ伯領から、ここランドール伯領まで馬車で15日ほどの距離がある。まあ、向こうは俺の事など覚えていまい。熱心に俺の秘密を暴こうとしてたのは1年ぐらいで、あとの4年はただの暴力だけで、サルヴァーテ伯など二度しか見た事が無い。


俺の秘密と言っても、前の自分には理解出来ないのだからどうしようもなかった。ほんと、自分自身間抜けな事だ。


今も月明かりの牢屋の中で、スマホをいじっている。5歳の時の告知メッセージでアイテムBoxが使用できるようになったが、ただ便利ぐらいで水や鉄塊、農具なんかを取り出していた。今ならわかる。無駄なことを、浅はかな事を。


このアイテムBoxは収納だけではない。要望した物を誰かが入れてくれる、便利で済む物ではないほどだった。このスマホを念じた時、『申請します。』と言って2時間ぐらい反応がなくなり、壊れたかと焦っていたが、『承認されました。Box内に収納済みです。』と返ってきた。アイテムBoxに意識を向けるとスマホを認識し取り出す。


さすがに電波は受信しないが、Box内に収納すると充電と更新が済んでいる。ちなみに、武器が欲しくて拳銃を念じたら1日後に却下された。便利だけど融通が利かない。


そんな暇つぶしをしていたが、4日目に領主館へと連れて行かれる。ーーーどうせ、俺の秘密が知りたいのだろう。


後ろ手に拘束されたまま領主の前に出される。両脇には衛兵が立っている。


領主は豪華な椅子に座ったまま俺を見て


「君はサイナ村で神童と呼ばれていたな?」


「覚えていません。」


感情もなく答える。


「サルヴァーテ伯には何を答えた?」


「記憶が曖昧で覚えていません。」


衛兵に膝裏を蹴られ両膝が床をうつ。勢いがつき顔面から床に打ち付ける。直ぐに衛兵に両脇をとられ膝立ちのまま上体を起こされる。


こういう事はもう慣れた。睨むでもなく、されるがままで領主を見ていた。


「お前はサイナ村のアランだ。なぜソウタなどと名乗った?」


「ソウタは俺の名前です。」


衛兵に後頭部を殴られる。衛兵は簡易だが鎧を着ている。腕にはガントレットしているので、衝撃は半端ではない。それでも容赦なく殴られる。


「いろいろ思い出したか?」


「覚えていません。」


今度は顔面を蹴られ床を転がる。衛兵に引き摺られ領主の前に膝まづかせられる。


そんな事を繰り返し、散々痛ぶられて牢屋に放り込まれる。いつもの事だ。隷属の魔法が掛かれば命令するだけだが、俺には魔法は利かない。だから必要以上に暴力を振るう。


俺は、この世界では異物だ。


俺に魔法は利かない。マナの影響がある物質も俺には意味がなく、暴力にも痛みを感じるだけで、剣で切られても弾いてしまう。痣は出来ても致命傷にならない。俺を殺せる武器はアイテムBoxから出した現代のナイフしかないだろう。


それから1ヶ月。毎日毎日同じ質問に暴力。領主には一度しか会っていないが、前の時と一緒だった。ーーーだが、今回は少し違う様だ。今、また領主の前に引き出される。拘束はされていない。領主と執事みたいな人、鎧を着た強そうな男、冒険者ギルドにいた女が俺の前にいた。


「元気かね、アラン(・・・)君?」


「俺はソウタです。」


気にした風でもなく領主は


「君の対応が決まった。我が領民として受け入れる。」


そう言って領主はギルドの女に合図を送り女が話し始める。


「冒険者ギルドで身分証を発行します。ただし、この身分証はランドール伯領内でのみ有効ですので、他領や他国では利用出来ません。また半隷属扱いですので領主様並びにギルドには服従して貰います。」


用は済んだとばかり衛兵に引き摺られ領主館から出される。そのあとをギルドの女も付いてきた。


「それではギルドで身分証を発行します。」


女はさっさと歩き出す。仕方ないのであとを追いギルドへ向かう。


ギルドの受け付けで身分証のカードを渡される。名前はアランと記されていたが、俺が受け取ると全ての表示が消えてただの真っ白いカードになった。


「なっ!?」


女の驚く顔を無視してアイテムBoxから黒のマジックを取り出し、ソウタと一杯に書き込む。女はマジックを見てさらに驚くがさっさとBoxにしまう。


諦めた表情をして女は冒険者ギルドの説明を始めた。


「ランクはA~Eまであります。最初はEランクですが、あなたは登録が出来ないのでランク外のままです。Eランクなら問題ありませんが報酬の良い高ランクの依頼は受けられません。チームに所属すればその限りではあります。また、単独で行動する時はギルドと衛門で報告する義務があります。」


一息ついて


「身分が保証されるのは領内だけですので注意してください。」


それだけ言うと、女はさっさと歩き去ってしまう。


待ち構えていた様で、柄の悪い男3人と女1人の4人組が近づいてくる。


「よう。俺たちのチームに入れてやるよ。」


そう言いながら両脇を固められてギルドから連れ出される。


「まあ、新人は荷物持ちだな。」


大きな袋が置いてあり目配せされた。黙って袋を担ぎ4人のあとをついていく。

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