まちをすくったこいぬのコロ
ある街に、小さな子犬がいました。
生まれてすぐにお母さんが死んでしまったので、子犬は一人ぼっちです。
小さな赤ちゃん犬はいつもお腹を空かせて食べ物を探しています。どこかに美味しいものはないかな?
鼻をクンクンとさせながらあっちの路地裏こっちのゴミ箱をいったりきたり。
時には通りすがりの人に食べ物をねだるのですが
「きたない犬だな! あっちへいけ!」
と追い払われてしまいます。
大きな声で怒られるのはまだ良いほうです。
街の子供たちなんて、子犬を見つけたら石を当てるゲームをはじめます。
ゴミ箱を漁っていると、肉屋の主人などは子犬を蹴り飛ばしてくるので、子犬はいつも大変なのです。
ある寒い冬の日の事でした。
雪がパラパラと降るその日、子犬はご飯も食べられずに街をてくてく歩いていました。レンガが敷かれた道は柔らかな子犬の足には冷たくて、肉球がツキンツキンと痛みます。
お腹が空いたな、寒いな、と思っている子犬の前に1人の女の子がやってきました。
「かわいい子犬。わたしのビスケットをあげる」
女の子は自分のおやつのビスケットを割って半分子犬に分けてあげました。
子犬はそれを食べたとき、きっとこれがいつも人間たちが言っている温かい食べ物なんだと思いました。
だって心がぽかぽかします。
「私は今日この街に引っ越してきたの、お友達になりましょう」
女の子の名前はちーちゃん、笑顔が可愛い5歳です。
「お名前は? ないの? じゃあ私がつけてあげる、えーっとね……コロ!」
子犬は嬉しくてワンと一回鳴きました。
それからしっぽをパタパタさせて、ちーちゃんの周りをぴょんぴょんと飛び跳ねました。
その日は陽が暮れるまでコロとちーちゃんは遊びました。
「ごめんなさい、うちはお母さんが犬が嫌いでコロを飼ってあげられないの」
夕暮れ時、ちーちゃんがしょぼんとしながら申し訳なさそうにコロを抱きしめました。泥だらけの汚いコロをそんな風に抱きしめてくれたのはちーちゃんがはじめてです。
「明日また遊ぼうね、食べ物を持ってくるから」
次の日、約束通りちーちゃんはコロに会いに来てくれました。可愛いお花柄のハンカチに自分の朝ご飯だったハムと目玉焼きをこっそりと包んでちーちゃんは持ってきてくれました。
その日もコロとちーちゃんは陽が暮れるまで思いっきり遊びました。
小さな1人と小さな1匹はもう大親友です。
コロはもう寒くありません、ちっとも寂しくありません。
ですがある日、コロがちーちゃんを迎えに行くと
ちーちゃんの家が燃え上がっていました。
火事です。
真っ黒な煙とお日様みたいに明るい炎がちーちゃんの家を飲み込んでいます。
家の中からはちーちゃんの泣き声がしました。
ワンワンワン!
コロは大声で鳴きました。街の人達に助けをもとめましたが、誰も炎の中に飛び込んでくれる人はいません。
コロは路地裏の影に溶けきっていない泥だらけの雪だまりに身体をこすりつけると、そのまま家の中へ飛び込みました。
熱くて怖い炎の中を、コロはワンワンと勇気を振り絞りながらちーちゃんを探し、見つけました。
部屋の隅で泣いているちいさな腕をむんずとくわえ、コロは燃え盛る家の中からちーちゃんを助け出しました。
「コロありがとう!」
あちこち火傷して髪はちりちり、頬は煤けて真っ黒でしたがちーちゃんもコロも生きています。
その時、消防隊員が駆けつけました。水をびゅうびゅう飛ばすお化けのような機械で、火事はあっという間に消えました。
「キミがこの子を助けてくれたのか、なんて勇敢な犬なんだ」
消防隊が驚きながらコロに敬礼をしました。
「キミがたくさん吠えてくれたから、街の多くの人が火事から逃げることができた。キミはその小さな身体でとても偉大なことをしたんだ」
街の人達もこれまで嫌っていたコロに拍手を送りました。
それからというもの、コロは街のヒーローになりました。
汚れていた身体はすっかり綺麗に洗われてお腹いっぱい食べられるようになりました。なにより首輪についた消防隊の証であるピカピカのバッチはコロにとって勲章でした。
コロは消防隊の名誉消防犬になったのです。
それからというもの、コロは街のために一生懸命働きました。
もちろん、ちーちゃんとずっと仲良しなままね。