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 捜査会議に集まった竹内たちの手元には、新しい捜査資料が配られていた。いや、新しくはない。変更されたというべき、現場の所見が配られていた。

 永井が前でマイクを握る。

「すでに手元にある資料を見た人はわかったかもしれないが、現場所見が変更された。現場に残されていた血痕の量の項目を見てほしい」

 ちょうど、スクリーンにもそのポイントが表示される。

「変更されたのは、血痕の量から現場であると断定していたところが、現場の可能性になっている。この意味が分かるか?」

「第二の犯行現場があった可能性があるということです」

 横に控えていた鑑識員が答える。それに頷いて永井は台詞を続ける。

「考えにくいことではあるが、第二の現場が被害者が写真を撮ったポイント近くにあり、その後で移動させられた。血痕は、現場で殺されていたように偽装したもの。例えば、被害者の血液を培養したもの、あるいは、撥水加工されたブルーシートか何かで被害者事運んだものと考えれば、一応つじつまは付く。この方針で捜査を進めようと思う」

 永井が示したのは一つの可能性だった。そしてそれは同時に、永井たちの発想の限界でもあった。

 どう考えても不備がある。竹内は思っていた。まず、どうして岡崎の殺害現場を偽装する必要があったのか。殺人事件などにおいては、動機にはある程度の必然性がある。それが全く見いだせない。そのほかにもいくつかあるが、一番大きな理由は、なぜそこまで大掛かりなことをして、岡崎を殺さなければならなかったのか。どう考えても、そこまで大掛かりにする必要が見当たらない。どうしても殺したければ、強盗の仕業なんかに見せかけて殺す。そんな事例を今までいくつも見てきた。それだけに、永井の考えは矛盾点を大きくはらんでいるものだった。

 縦社会であるが以上、竹内は命令されればそれに従う。けれど、心のどこかで納得できない点があるのも確かだった。

「第二の犯行現場が見つかれば、この考えが正しいと立証されます」

「そういうことだ」

 永井が言う。今の永井たちでは、不可能犯罪という砦を崩すのは、これが精いっぱいの悪あがきだった。それしか考えられないからという、消極的選択に過ぎない。そのことは永井もよく理解していた。けれど、警察として、不可能犯罪が存在するなんてことを認めるわけにはいかなかった。その結果だった。

「というわけで、諸君には、第二の現場と思われる地点、この付近で聞き込みを行ってもらいたい。怪しいところがあれば鑑識を呼んでくれ。被害者の血痕が発見されれば、その説が立証できる。ここまで、何か質問はあるか?」

 永井があたりを見渡す。さっきから大きな疑問符が渦巻いていた竹内は一人手を挙げた。

「あの、坂井智弘の件はどうなりますか」

 さっきから頭を渦巻いていた疑問。もしも第二の犯行現場が存在するとしたら、坂井には犯行は不可能になる。そこからこの警察署まで、自首するのにかかる時間が足りないからだ。ということは、坂井は嘘を吐いていたということになる。

 竹内には、どうしても坂井が嘘を吐いているとは思えなかった。あの表情、苦悶の姿、あれは、罪悪感に怯える人間の姿に見えた。だからこそ、ここに何か大きなからくりがあると竹内はにらんでいた。

「そうか、それがあったか」

 考えてなかったといった表情で永井は黙り込む。けれど、すぐ表情を戻して言った。

「おそらく、坂井は誰かを庇っているだけだろう。だが、念のため聞き込みをするべきだな。竹内、鈴木、頼めるか」

「はい」

 竹内は頷く。このからくりを解き明かしてやりたい。そう思って。その横では竹内の相棒の鈴木も頷いた。

「滝川、青木は引き続き、被害者が誰かに恨まれていなかったかなど、被害者周りの聞き込みを頼む。他のものは第二の現場の捜索だ。頼めるか」

「はい」

 青木もしっかりと頷いた。

「それじゃあ、各自与えられた任務をこなすように。以上、解散」

 永井の掛け声とともに、刑事たちは各々散会していく。竹内や、青木たちもその中にまみれた。

 けれど、会議室を後にする永井には、自分の方針が果たして正しいのか、今一つ自信が持てないでいた。

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