表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/30

10

「なあ、鈴木。お前はどう思う?」

「どう思うって坂井のことか」

「ああ」

 車内で運転をしていた鈴木に竹内が話しかけた。竹内の感じる違和感、その正体を確かめたくなって尋ねる。

「どうって、あれは何かを庇ってるんじゃないのか? そうでもなきゃアリバイがあるのに自首なんてしないだろ」

「それは、そうなんだが……」

 竹内は歯切れ悪く答える。

「何らかの事情は知ってるのは間違いないだろ。ただ、不可能犯罪だったってことは知らなかったってだけで」

 饒舌にしゃべる鈴木に対して、竹内は黙りこくって考える。

 本当に、坂井は白なんだろうか。誰かを庇ってるとか、捜査を撹乱したとかではなく、本当に殺人を犯したんだろうかと。岡崎詩織を刺し殺したのかと。竹内には、どうしてもそうとしか思えなかった。あの狂気に侵された表情は、どうしたらあんなことになるのか想像もつかない。留置場のあの景色は、本物に見えた。

「あいつは、ただ誰かを庇ってるか、庇わさせられてるかじゃないのか」

「俺は、違うと思う」

 竹内は、地面を見つめながら言った。

「俺は、あいつが犯人だと思う」

「って、あいつのアリバイは証明されてるぞ」

 びっくりした鈴木が振り返る。幸いにして、車は既に警察署内に停められていた。

「ああ、確かにそうだ。でも、俺は、あいつが語ったことが嘘だとはどうしても思えないんだ。あいつが語ったのは、まぎれもない真実だと思う」

「それだって、作り話だって可能性もあるぞ」

 車を降りながら鈴木が言う。竹内もその後に続いたが、心の中は相変わらず晴れないでいた。

「俺は、どうしてもそうとは思えないんだ。人を殺した様子を、あんなに生々しく表現できるはずがない。できたとしたら、それは人を殺したことがある人間くらいだ」

竹内のその言葉に、鈴木は立ち止まる。うつむいたまま歩いていた竹内がその背中にぶち当たった。

「だとしてもそれが今回の件だとは限らないだろ。不良として有名だったって話だしな。それに、あいつが思い込みをしてるって可能性もある。何にせよ、俺たちは与えられた仕事をこなすだけだ。違うか?」

「ああ、そうだが……」

竹内は下を向いたまま口ごもる。その頭の中を、昨日見た坂井の苦しむ光景が渦巻いていた。

「俺は、あいつが、坂井が罪の意識に苛まれてるように見えたんだ。坂井はそれに苦しんでる。俺は、それを何とかしてやりたいんだ」

「いいか竹内、親友として忠告しておく」

 呟いた竹内の両肩を鈴木が抑えつける。その力は、細身な鈴木の体躯から考えられないほど強かった。

「刑事の事件に、関係者の心情に深入りしすぎるな。精神を病むぞ」

 竹内はとっさに頷くことしかできなかった。それを見るや、鈴木は足早に警察署の内部へと入っていく。

「俺は、あいつが精神を病んでるように見えたんだけどな」

 竹内のその呟き声は、誰にも届くことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ