言葉のトリック
「ちょ、ちょっと待ってよ!薬草を採りに行くんじゃなかったの?」
宿屋に向かおうとするセリカをカイルは慌てて止める。
「いえ?誰がそんな事言ったんですか?」
「さっきお母さんに説明していたじゃないか!」
「私は、薬を作るのに必要なものは採取しないとない、そう言っただけです。採取しに行くなんて言ってないじゃないですか~」
「じ、、じゃあなんで僕を連れ出したのさ!」
「もちろんポーチを返してもらうためですよ♪お母様にばれないようにわざわざ外に連れ出したんですから、感謝されこそすれ恨まれる筋合いはないですよ」
――…薬草とか必要なのでその採取に行かないと……お子さんをお借りしても?――
セリカは薬草採取するとも、手伝えとも明言していなかった。あくまで、薬草がない、カイルを借りるとしか言っていない。
半分詐欺ですけどね~
そんなことを考えながらチロっと舌を出しながらカイルに背を向ける。
さて、ここからが商売です。私の読みが当たれば…
「ちょっと待ってセリカさん!!」
「…まだ何か?」
「銀貨3枚支払えば薬を作ってくれるんでしょ?」
「おや?覚えていましたか。ですが生憎薬草が…」
「僕が必要な薬草を採ってくるから薬を作って!!」
ビンゴ♪私の読みの大当たりです♪
思わずガッツポーズしそうになるのを堪えて、リュックから空の麻袋を3袋取り出す。
「そういうことでしたら作ってあげなくもないです。今から言う3種類の物をそれぞれこの麻袋いっぱいになるまで採ってきてください♪」
「本当!?分かった!任せてよ!!」
さっきまでの不安げな表情とは打って変わって、ぱあっと明るくなった少年の笑みに、すこし意地悪だったかな?と反省するセリカであった。
薬草の種類とその特徴をカイルに教え、今日はもう遅いと言う事で明日の朝に町の広場で集合ということにしてカイルを家に帰す。そして歩く事十数分、やっと商人ギルドの受付嬢に教わった宿に着いたのだが…
「悪いな譲ちゃん。満室だよ」
恰幅のいい宿屋の主人に断られてしまった。
「…やっぱりそうですよねぇ」
「ああ、大体この時間から宿を取るのは、ちと厳しいんじゃないか?」
月明かりが照らす町は静かでほの暗く、既に宿屋と酒場の明かりくらいしか街灯はない。
「ちょぉっと思わぬ事件に巻き込まれたと言いますか…」
キュルルルルルルルル……
セリカのお腹が大きく鳴った。
「…お昼も食べ損なうわ夜も食べ損なうわで踏んだり蹴ったりです」
「なんだ?可愛い音を鳴らすんだな!」
がっはっはと笑う主人にセリカは口を尖らせる。
「食事はこの際、手持ちの携帯食料でいいんです。…町にいるのに携帯食料なんてどんな罰ゲームだよって感じですが……問題は宿なんですよ!どうにかなりませんか?」
「んなこと言われてもなぁ…この辺の宿屋ももう満室だろうし…」
主人と問答をしていると宿屋のドアが開かれた。
「主人よ。昼ごろに予約していたヨハネだ。部屋はどこになる?」
長い金髪に整った顔立ち、一見華奢な身体に似つかわしくない鎧に身を包んだ女性が入ってきた。
「あーはいはい。ヨハネさんね。部屋は2階の一番奥。ご所望どおり風呂付の広い部屋だ…よ?」
「……」
ヨハネに渡すための鍵をセリカが凝視している事に気づいた主人は少しまごつきながらもヨハネに鍵を渡す。
「うむ。ありがたい」
主人から鍵を受け取り、店の奥にある階段に向かおうとしたその時
「ちょっとお話いいですか?」
大きなリュックを背負った栗毛色のロングの髪の女が話しかけて来た。