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3章 知恵

背後から仲間の断末魔が響き渡る中、必死に木の根っこに躓きながらも迫り来る二頭のウルフから逃げる。ウルフは口元を仲間のであろう鮮血で赤く染めながら、事切れた仲間を捕食する訳でもなく、黒い風のように生き残っている獲物を逃さんと距離を縮めて来ている。仲間を見捨て自分だけでも生き残ろうとしても無駄だとあざ笑うかのようにウルフの息づかいが耳元で聞こえた瞬間、目の前から光が消えた。





「今のが最後だな。よくやったぞ~お前達」

周囲に転がったオークの死骸の中を闊歩する6匹のウルフを呼び集め頭を撫でるソルト。今回受けた依頼は村周辺に住み着いてしまったオークの群れの討伐だ。今のところ大した被害はないが繁殖期に入るとその数を増やし農作物や家畜を襲い始めるそうで、そうなる前に処理しておこうと言うわけで村の農家全員の連名での依頼だそうだ。報酬は銀貨2枚と安価である代わりに、新鮮な野菜をいくつか現物支給してくれるという、いかにも農家らしいものであったせいか受けようとする冒険者が少なかったためソルトが受注した時は大層喜ばれたものだ。

昨日手に入れたウルフのカードの実戦練習も兼ねた依頼は、夜行性であるウルフの特徴を活かす為にも夜中に奇襲を掛けることにしたのが思いのほか上手くいった。森の中の少し開けた場所で何の警戒も無く寝息を立てる10匹のオークの群れに6匹のウルフを忍び寄らせ、それぞれ首筋を噛み切らせる。突然上がった断末魔に夢から覚めた4匹のオークがウルフに気を取られられている内に、背後から拙い剣捌きでソルト自身が1匹仕留めると後は数の暴力。突然の奇襲に慌てふためく烏合の衆に対して、統率の取れた侵略者が場を制圧するのに時間はかからなかった。


「そんでもってこれが今回の追加報酬ってやつだな」

ホルダーに新しく登録されたカードにはオークの絵が描かれていた。


――

所持枚数

93/100


種別

スライム×77

ウルフ×6

オーク×10

――






************


「畑を襲うレイヴンの処理?」

ルーマンの町に近い村に長居するつもりはなかったが、ウルフやオークの討伐と村人達が辟易していた問題を解決したせいか、村人達から気に入られ、村での生活は過ごしやすいものであった。ルーマンの町から文字通り逃げるように飛び出したために、最低限の旅支度しかしてなかったので、ここで旅支度を揃えるために、薬草の調達などのちょっとした依頼なんかもこなしてあれよあれよという間に数日が経った。

資金も物資もある程度揃ったので、そろそろ新しい戦力カードを手に入れて村を出ようと、冒険者ギルドに向かうと畑を荒らすカラスのような魔物、レイヴンの討伐依頼をギルド職員に勧められた。

「ソルトさん、村の皆さんからすっかり気に入られていますからね。ぜひソルトさんに頼みたいと」

「自分にできそうなことをしていただけなんだけど…」

困ったように頬を搔くソルトにギルド職員は笑みを浮かべる。

「それでどうしますか?無下にすることもできますけど」

「無下って…もう少し言葉の選び方を…」

「ソルトさんならそんな事しないですよね?」

「……分かりましたよ。受注すればいいんでしょ」

「ありがとうございます!無事に達成できればランクが上げられるかもしれませんので頑張ってくださいね!」

村に来てから数日の間にすっかり打ち解けた…というより、ソルトの性格を見抜いたギルド職員に良いように扱われるのもこれで最後だと思えば少し寂しい気もするなと自嘲気味に依頼を受注するソルトであった。




『レイヴン・・・雑食性で知能が高く、群れを成す黒い魔鳥』



「…まんまカラスだな。ちょっと大きいけど」

ガイドブックにあるレイヴンの情報を確認しながら被害に困っているという畑に赴くと、何匹ものレイヴンが畑の野菜を狙おうと空を旋回していた。

「レイヴン避けに畑に網を張ってんけど、目を離すといつの間にか網に穴を開けてよぉ…この網も3回は取り替えてんだ」

「うちなんか7回は取り替えたよ…しかも糞まで落としていきやがるから性質が悪いったらありゃしない!」

「魔法で1匹を打ち落とせば5匹で襲い掛かってくるし、怪我をした子供もいるんだよ」

レイヴンの被害にうんざりとした表情でソルトに訴えかける村人をなだめつつ、どうやって空を飛ぶレイヴンを倒そうか考えるソルト。



町でカラスを見かけても特に追い払ったりした事ないしなぁ…CDとかぶら下げているのは見たことあるけど意味あるのか知らないし…



「あ……小麦粉ってあります?」

数分思案したところでふと顔を上げたソルトに村人達は不審そうな顔をする。

「小麦粉?あるにはあるが何に使うんだ?」

「対レイヴン用の罠ですよ」


・・・・・・


「よし、それじゃみんな離れて離れて~」

村人達の協力の元、罠が出来上がるとレイヴンに警戒されないようにその場を離れる。

「あんなのでレイヴンを倒せるのかい?」

「見てれば分かりますって」

姿勢を低くして茂みの中に隠れるソルトと村人達の視線の先にあるのは、松明を四方に取り付けた3メートル程の囲いに、これ見よがしに囲いの中心に置いた木の実の数々、そして囲いの中一面に小麦粉を蒔いて作った罠。


畑の上を旋回していたレイヴン達は少し離れた場所にまるで自分達への献上品かのように設置された木の実に気づき罠の上空へ移動を始める。

「さて、知恵比べといこうか!」

ソルトがニヤリと笑う後ろで村人達は唾を飲み込み静かに見守る。


周囲への警戒を解いたのであろうか、しばらく上空を旋回していたレイヴン達は我先にと一斉に木の実に向かって急降下を始める。そして木の実の取り合いで羽と、辺りに蒔かれた小麦粉が宙を舞った瞬間―――






「うひゃあ!!」

「す、凄い…」

レイヴンを巻き込みながらゴウと音を立て空へ上がった火柱を大口を開けて見上げる村人達。

「なんとか上手くいってよかったぁ。…っと、ホルダーはどうかな?」

そんな彼らの中でホルダーの液晶に新たに映し出されたレイヴンを確認するソルトであった。



――

所持枚数

100/100


種別

スライム×77

ウルフ×6

オーク×10

レイヴン×7

――

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