足を買ったら火の車
「新商品の化粧水は好評につき、申し訳ありませんがお一人様二点までとなっております!はい、そこ!!列に割り込まない!!」
看板を持ったアンナが行列を声をあげながらどうにかこうにか整理する。裏通りにも関わらずセリカの店には先日と同じように行列ができていた。数量規制の入った新商品は昨夜のうちに大量に仕込んだスラーゲン配合の化粧水だ。夜営の多い冒険者にとって肌の乾燥は切っても切れない悩みの種であることを利用し、保湿効果のある商品という宣伝を見た目に気を使うダンサーを職業としているアンナにさせる事で女性客を中心として行列を生み出す事に成功したのだ。原価が原価な為に化粧水を銅貨3枚という安い価格設定にしたことも大きく、女性冒険者のみならず、おしゃれに気を使い出す思春期真っ只中の少女から肌のハリが気になりだす主婦と人が人を呼び、気づけば表通りにも匹敵する盛り上がりを見せており、大量に用意していた化粧水は、夕暮れ前には完売した。行列が無くなりその場に残ったのは、疲れた顔で腰掛けるアンナと大量の銅貨を数えるホクホク顔のセリカだった。
「ぐっふっふ♪まさかここまで上手くいくとは思いませんでしたね。アーニャの美貌様様です!」
「感謝の言葉よりも今夜は美味しいものでも食べさせなさいよ…」
「分かってますよ~、とりあえずはコレでも飲んで一息つきましょうか」
声をあげ続けて疲れきったであろうアンナの喉を癒すためにセリカがハーブティーを淹れて渡すとアンナは両手で包み込むようにカップを手にして口に運ぶ。
「はぁぁ・・・・・・あったかい・・・・・・」
「マロウ種のハーブティーです。疲れた喉にいいんですよ!」
「そうなんだ。ありがとう・・・んんっ・・・心なしか喉の痛みが和らいだ気がするわ」
「それは良かったです♪」
「・・・ねぇセリカ。これは何?」
「何って、ナポリタンですよ?」
「そうじゃなくて!なんでお店じゃなくてこんなところで食事をするのかって聞いているのよ!夕飯は美味しいものを食べるって言ってたじゃない!」
アンナが椅子から立ち上がって文句を言う場所は裏通りの屋台、セリカの店である。屋台の上にはセリカの作ったナポリタンが並べられていたのだ。
「こんなところって、失礼なっ!これも立派なお店です!それに料理には少々自信ありますし、ナポリタンは美味しいですよ!」
「セリカの料理が不味いとは言わないけど、折角のお祭りなんだから専門店とか出店で食べたいって言ってるの!」
「言いたいことは分かりますがお金が無いんですから我慢してください。贅沢は敵だっ!て言うでしょ?」
「お金が無いってさっき散々稼いでたじゃない!私のおかげで!」
「ええ、おかげ様で♪…ただ、予想以上に儲かったので1つ大きな取引をしようと思いましてね、少々予算オーバーしたので帳尻合わせで今夜はこうなりましたが…きっとアーニャも喜ぶ取引です!」
「・・・そうなる事を祈るわ」
この話しは終わりと言わんばかりに、いただきますと手を合わせて食事を始めるセリカにため息を吐きながら席に着いたアンナも食事を始める。
「この料理、美味しいのが逆にむかつくわ」
************
翌朝、商人ギルドの職員に連れられて町外れのギルド所有の馬舎に行くと他の職員によってキャビンに繋がれている最中の一頭の馬がいた。
「ご注文の品はこれでよろしいですか?」
「大丈夫です!ご苦労様でした!」
ギルド職員に金銭の入った袋を渡すと、中に入った銅貨の多さに顔をしかめたものの枚数を確認し終えると職員たちは町に戻っていった。
わけもわからず朝からセリカに連れまわされたアンナは馬車を前にして目を丸くしていた。
「いきなり商人ギルドに行くとか言いだして、着いたと思ったら今度は町外れに行くとか言い出して・・・大きな取引ってこれのことだったのね」
「有り金はたいて取引しちゃいました♪まぁそれでも足りなかったので刀も売りましたが」
「刀ってあのジャンク屋で手に入れた魔力を込めると魔法が出せるやつ?」
「ええ。闘技場での試合がいいデモンストレーションになりましてね、良いお値段で売れましたよ♪」
「これで旅をするって訳ね。まぁ私も移動手段は持ってなかったからセリカの言うとおり嬉しい取引ね」
「そうでしょうとも♪さ、次は冒険者ギルドに行って依頼を受けにいきましょうか?」
「え?なんで?」
「言ったでしょ?有り金はたいて取引したと」
セリカは腰のお金の入ったポーチを取り出し逆さにして振る。チャリンという音すらせずに出てきたのはたったの銅貨1枚。
「嬉しくない取引ね・・・」
今更ですが、サブタイトルに「章」がついているのは基本的にはソルト視点のお話しです。




