追いかけっこ
遅ればせながら6話目となります。
リュートの町は大きな町だ。冒険者や商人の出入りも多く活気に溢れている。しかし、人が多いと言う事はちょっとしたスリもいるわけで…
「はぁ…はぁ…あいつしつこいな」
少年は住み慣れた町を後ろから追ってくる女から逃げるように駆け回っていた。人混みの中をすり抜け、複数の路地を右へ左へと駆ける。土地勘と小回りの効く小さな身体で女との距離は徐々に開いてきている。大抵の連中は諦めるはずなのに、女は少し油断をするとすぐに追いついてきそうなくらいの気迫で追ってきていた。
「完全に油断していましたね…」
セリカは徐々に距離が離れていく少年を追いながら自分を恥じていた。商人が自分の商品、ましてお金を盗られるなんてあってはいけないことだ。体力のほうには余裕があるが、少年が人混みや路地を曲がるたびに少しずつ距離が離されていく。
「…あの子逃げなれていますね。地の利は向こうにあるってわけですか…」
追跡を諦めたセリカは、少年を見失わない程度の速度で追いながら魔力を練り、詠唱を始める。
『来たれ風精、我と彼の者の間に一筋の道を作れ。追跡魔法!』
セリカの手から放たれた光が人混みの間を抜け少年に届いた。
「捉えた!」
セリカは魔法が成功したのを確認すると足を止めた。
「はぁ…はぁ…やっと諦めたか…」
しばらく走り続け、女が追ってこない事を確認すると盗ったポーチの中を確認する。今日の獲物は昼に広場で賭け試合に勝っていた女だ。賭け試合をする冒険者なんてクズに決まっているし、気持ちの悪い笑みを浮かべながら、商人ギルドに出入りしたのも見た。きっと不当な事をして稼いだお金に違いない。だったら僕が盗んでも問題ないんだ。自分に言い聞かせるようにポーチの中を確認すると金貨7枚と銀貨2枚も入っていた。
「す、すごい…これだけあれば…」
少年は目的地に向けて歩き出す。その足は自然と足早になっていった。
少年は町の郊外にある自分の家に着くとベッドで横になっている母親に駆け寄る。
「お母さん!お金がたくさん手に入ったんだ!これでお母さんの病気も治せるよ!」
「まぁ…どこでそんなお金を?」
やせ細った女性が弱々しく尋ねる。
「…親切な人がお母さんのことを話したらくれたんだよ!今から薬屋に行って来るね!」
「そうなの…じゃあそちらの方が?」
「え?」
少年が母親の目線のほうを振り返るとそこにはいるはずのない女が笑顔で立っていた。
「毎度どうもです♪『親切な人』のセリカと申します♪」
「うわぁぁぁぁああああああ!!」
夕暮れの空に少年の叫びが響いた。