1章 接触 ~はじめてはスライムから~
私事なのですが、研修や実習等の影響で今後更新が稀になってしまいます。相変わらずの不定期更新で申し訳ありませんが、どうぞこれからもお願いします。
町を出て東にある森のとある一帯はスライムの群生地だ。ソルトは武器の扱い方を学ぶためにスライム相手にショートソードを手に取っていた。
「ふぅ…大体の剣の使い方は分かってきたな」
最初は30cmにも満たない小型のスライムにすら少し苦戦していたが今では1mの大型スライムでも相手ができるようになってきた。スライムから回収できるスラーゲンとかいうゼリー状の素材を詰めた瓶も10本以上になる。スライム1体、1体の出す素材も少なく換金率も悪いらしいが、その分このスライム群生地の周囲に人がいないため好都合だった。
剣の扱い方も我流ではあるものの一通り理解したソルトは剣を収め深呼吸をし、石で囲んだ火のついていない薪を見つめる。
「『来たれ火精! その身を焦がし火を灯せ!』」
・・・・・・
「ダメかぁ…はぁ…ライターもマッチもないもんなぁ」
子供でも出来る初級魔法で着火を試みるも薪は熱を帯びる事もなく何も起こらずにいた。子供でも出来るがゆえにこの世界には火付け道具というのはあまり存在しないのが魔法の使えないソルトを苦しめていた。異世界人だから魔法が使えないのか、やり方が違うのかそんなことは分からないが旅をする上で火が使えないというのは致命的だ。
「昔の人がやったように木の板と木の棒で火を熾すことってできるか?」
ふと昔目にした歴史の資料集を思い出し手ごろな道具を探し始めようとした時、背後から茂みを掻き分ける音がガサガサと鳴る。ソルトは音を立てないようにゆっくりと剣を抜き構える。
落ち着け…この辺にはスライムしかいない…
徐々に音が大きくなると、茂みから影が現れた。
「おかしいですねぇ…スライムの群生地なのに一匹も見当たらないなんてって、あら?こんにちは~」
茂みから出てきたのは栗毛色のロングの髪に大きなリュックを背負った女性だった。
「…こんにちは。こんなところに何のようで?」
見たところは教会や騎士の関係者ってわけでは無さそうだが油断はできない。剣を構えたまま距離を保つ。
「スライムの群生地に来てるのだからスライム狩りに決まってるじゃないですか。警戒するのは分かりますがとりあえず剣を下ろしてくれません?」
そう言って女性の提示してきた商人ギルドのカードを目にしてから剣を下ろす。
「すいません、こんな所に人が来るなんて思わなくて」
「私もびっくりです。見たところ冒険者の方のようですがスライムはお金になりませんよ?」
心底不思議そうな顔でその商人は首を傾げるがそれはこちらの台詞だ。
「商人のあなたこそなぜ?」
「そりゃあフェスティバルに出す新商……秘密です♪」
何かを言いかけて不味いと思ったのかすぐに誤魔化すように笑顔を振りまく商人。きっとスライムに何かお金儲けの手段があるのだろう。
「私なんかよりあなたはなぜこんなところに?」
「……」
「話したくないなら別にかまいませんけどね。それでは~」
「あ、待ってください!実は――」
一礼して立ち去ろうとする商人を咄嗟にソルトは呼び止めていた。
「はぁーなるほど。剣の扱いの為に…そして魔法が使えないから火が熾せなくて困っていると」
「はい。…田舎から出てきたばかりでこういった事も初めてで」
「魔法が使えないのは生まれつきですか?」
「えっと、生まれてこの方使ったこと無いです」
「ふ~む。私も特殊な幼少期を送ったと思いますがあなたも大概ですね」
「あーまぁ。あはは」
なぜだろうか。自分でも分からないがこの女商人に話さなくても言いことまで話している気がする。だが、ここですぐに別れるのは間違いなような気がしてならない。
…どこかであった気がするんだよなぁ
「とりあえず、火が熾せないって言うならこれですかね」
そういって商人がリュックからマッチ箱を取り出す。
「マッチですか?」
「おや?ご存知でしたか。余った火薬でついでに作ったものなので2箱銅貨1枚でいいですよ。使い方は分かりますよね?」
「はい!ありがとうございます!じゃあ…4箱お願いします」
銅貨を2枚取り出し、マッチと交換する。これで当分は何とかなりそうだ。受け取ったマッチをバッグに閉まっていると真剣な眼差しで商人に見られていることに気づく。
「あの、何か?」
「……いえいえ♪ちょっと珍しいバッグだなぁと思いましてね。そのバングルも良い趣味してますね♪どちらで購入したのですか?」
「これは………昔のことなんであまり覚えていないですね。すいません」
「そうでしたかー」
なぜかニヤニヤと笑い続ける商人に口を滑らせそうになった自分を戒める。あまり余計な事を言うと面倒なことになることに違いない。話しを反らすためにもスラーゲンの入った瓶を取り出す。
「スライム狩りに来たって言ってましたよね?これって買取できますか?」
次から次へと出てくる瓶の数に目を丸くする商人。
「うわーこれ全部1人で?すごいですね……っていうかどうりでこの辺でスライムが見当たらないわけですね。え~っと、この量なら銀貨1枚ですね」
「え!?それっぽっちですか?…換金率悪いとは聞いてたけどここまでとは…」
「まぁだから誰も率先して狩ろうとしないんですけどね。無害ですし。どうします?」
「持ってても仕方ないんで…買取お願いします」
「かしこまりました♪サービスでマッチ1箱おまけしちゃいますね♪」
思った以上に安く買い叩かれたが、マッチを5箱手に入れられたのは、かなりありがたかった。聞けば他にも薬の調剤も扱っているとのことだったので、狩りの途中でたまたま手に入れた薬草と調剤費を払って初級ポーションというのを2瓶作って貰った。
「薬まで作れるなんてすごいですね」
「他店と差別化していかないと生き残れませんからね~。では、私はそろそろルーマンに戻りますけどあなたは?」
「俺はこのまま東にあるっていう村に行こうかと」
「そうですか。あ、まだ名乗っていませんでしたね。私は行商人のセリカです♪旅先でまた会えたらよろしくお願いしますね♪」
「あ、はい!俺はソルトって言います」
「ソルトさんですか……若いようですけど大学生ですか?」
「ええ。セリカさんも若そうですけどお幾つなんですか?」
「18からは数えていません♪」
「あ、そうですか…すいません」
有無を言わせない笑顔に気後れして思わず謝ってしまう。
「……また会える日を楽しみにしてますよ!その時はもっと色々と買ってくださいね~♪」
相変わらずの営業スマイルを浮かべて去っていくセリカを見送ってソルトは、そういえばご飯食べ損ねたなと早速マッチを使い火を熾し始めた。




