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交錯

2話に分けようかとも思いましたが思い切って1話にしました。その分読みづらくなった気がしますが楽しんでいただけたなら幸いです。

地下迷宮の一室で待つルイの元に1人の青年が現れる。

「大体の状況は把握しているな?」

「ええ、サヴィーヌから聞きました。予備計画の通り俺は異界から来た勇者として振舞えばいいんですよね?」

「そうだ。勇者召喚の失敗や、勇者が使えない時のためにお前には演技を学ばせてきた。細かに決めた設定の下に勇者を演じ…いや、勇者になるのだ。どうせ誰も異界のことなんぞ知らん。疑われすらしないだろう」

「本物の勇者はどうするんです?」

「抜かりは無い。余計な事をされては困るのでな。既に指名手配の手続きは済ましている。次に会うのは処刑台の上よ!それにサヴィーヌにも捜索させるつもりだ。お前はこちらの心配はせずに自分の仕事をこなせばよい。まずは翌朝のお披露目会と国王共への謁見だ。頼んだぞアレン」

「お任せくださいルイ様」





「朝からすごい人ですねぇ~」

オルジフ教教会の大聖堂前にたくさんの人がごった返している。屈強な警備兵が大声をあげ行列整理をしているがままならない。そんな群衆の中にセリカも混じっている。別に信仰熱心で朝からお祈りに来たわけではない。昨夜召喚されたという勇者を見に来たのだ。

「この人混みじゃ勇者様の顔を見るので精一杯かもしれませんね。何とか勇者様と接触するいい方法はないでしょうかね…あれ?アーニャ??」

いつの間にか隣にいたはずのアンナの姿が無い。どうやらこの人混みではぐれてしまったようだ。どうしたもんかと考えていると大聖堂の扉がギギギと音を立て、中からオルジフ教教会枢機卿のルイと1人の青年が現れる。ルイが長いお祈りだか説教をし始めた中、青年を見たセリカの顔は引きつりだす。


「――・・・長い闇の時代はもうまもなく終わることでしょう。この青年こそ我らの希望の光、勇者アレン!!」

大きな歓声に手を振り答える1人の青年。教会が用意したのであろう立派な武器防具を見につけた整った顔立ちの金髪緑眼の青年・・・・・・セリカの期待する黒髪黒目の青年ではない。



ま、まだそうと決まったわけではありません。そう、彼は日本人ではないだけで……



「ご紹介に与りました。アレンと申します。私のいた世界でも魔物が蔓延り人々が疲弊していましたが・・・――」



終わった……「なぜか異界のことについて詳しい謎の行商人が気になる勇者。実はこの商人は・・・計画」が始まる前から終わった……そういえば世界は無数にあるって聞いたことありましたね…彼の世界はまた別の…



勇者に興味津々な人々の中でがっくしと肩を落とすセリカ、そんなセリカとは離れた人混みの中に、1人険しい顔をしている男がいた。





なるほどね…代役を立てたってわけか。片や英雄、片や指名手配犯…笑えない冗談だな。



安っぽい服に口元を隠すようにマントを身につけ、頭に髪の毛を隠すようにターバンのように長いバンダナを巻いた青年はケイ…いやソルトである。指名手配されていると知って急いで変装できそうな物を購入していたところ、町の人々が勇者を見に行くと話しているのを聞きこっそりと様子を見に来たのだ。あわよくば自身の置かれた状況の改善になると思ったのだが事態は悪い方向に進んでいるようだ。変装しているとはいえ教会の面々の目が多いこの町から出たほうがいいと考えたソルトは人混みから抜け出しマントの下のショルダーバックからガイドブックを取り出そうとすると同じく人混みから抜け出てきた少女にぶつかられてしまった。


「いたっっ!あ、ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですか?」

尻餅をついた真紅の髪をしたツインテールの少女に手を伸ばす。

「ありがとうございます」

ソルトの手を取り立ち上がってお礼を言う少女に軽く笑みを向けて立ち去る。


「ねぇ、ちょっと待って!」

少し足早に歩いたところで少女が小走りで追ってきた。


なんだ?変装がバレたか?…落ち着け。こういう時は冷静に…


立て続けに起こる不幸な出来事に疑心暗鬼になっていたソルトはいつでも逃げれるように半身だけ少女に身体を向ける。

「これ。落としたでしょ?」

少女の手には銀色に光るバングルが握られていた。

「あ!それは!」

「さっきぶつかった時にあなたのマントの下から落ちてきたみたいなの。はい」

少女から手渡されたバングルを慌てて受け取る。

「ありがとうございます!」

「大切なものなのね。誰かへのプレゼント?」

「プレゼント…そうですね。必ず帰って渡すつもりですよ。それまではお守り…かな?」

「??そう。頑張ってね」

キョトンと不思議そうな顔をしたあとすぐに笑顔を向け去っていく少女の背中にどこか懐かしい匂いを感じながらソルトはバングルの裏に小さく刻まれた姉の名前を見つめ少し考えて左手首に付ける事にした。本来のイニシャルなら「Sato.E」だが佐藤がありふれた苗字だからと「S.Elika」と刻んでもらったものだ。


プレゼントに相手の名前を刻むなんて我ながら可愛いことをしていたな…中学くらいの時だっけかな?


懐かしさに自然と笑みを浮かべながらソルトはその場を後にした。




「あ!セリカ!やっと見つけたわよ!」

「おお!アーニャ!なにほっつき歩いてたんですか!勇者が金づる君になりそうにないので本来の方法で稼ぎますよ!さぁ、急いで開店準備です!」

「あ、ちょっと!待ちなさいって!」


ソルトの向かった方向とは逆に、栗毛色のロングヘアーの女性とそれを追うように真紅の髪をしたツインテールの少女が走っていった。

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