序章~開かれた扉~
ルイと名乗った司祭風の男が言うには、ここは自分の住んでいた世界とは違う「異世界」であり、そしてどういうわけか俺はこの地に伝わる異世界の勇者として召喚されたらしい。
「勇者様、どうぞこの地で異常発生している魔物の討伐…いえ、おそらくこの原因は魔王の復活が考えられておりますので……魔王の討伐を!そして世界に平和を取り戻して欲しいのです!!」
話しを聞く限りこの世界は何やら大変なことになっているらしい。それこそお伽噺の勇者召喚を実行するほどに。だが、なぜかは分からないが目の前で事のあらましを説明するルイからは必死さが伝わってこない。それどころかどこか余裕さえ垣間見える。
「…にわかには信じられません。それに俺…私はただの学生。自分の知らない世界の為に命の保障もない冒険が出来るほど出来た人間でもありません」
「そうですか…いえ、こちらも無理なお願いでしたね。ところで勇者様のお名前をまだ聞いておりませんでしたね」
やけにすんなりと引き下がるルイに疑問を覚えつつもケイは答える。
「…佐藤です」
名乗った瞬間にルイがにんまりと口角を上げたことに恐怖を、いや、悪意を強く感じたがもう手遅れのようだ。
「では、『勇者サトウよ。我、汝の名を掌握せし者。その身と魂を我に捧げ従い仕えろ!強制契約!!」
ルイのはめていた指輪が強く輝き弾ける様に粉々になる。ケイは強い光に包まれ身動きが取れなくなる。
「何をっ!!」
「あなたが信じようが信じまいがどうでもいいんですよ。あなたはただ私の駒になるだけなのでね」
「なるほど…どこからどこまでが本当かは知らねぇけど最初から勇者という道具が欲しかったってことか」
光の拘束を解こうと必死にもがくものの腕一本満足に動かせない。
「…その術は大昔に失われた術の1つ。一度だけしか使えない洗脳魔法ですが名前さえ分かれば対象人物の全てを掌握できると言うそれはそれは恐ろしい術なのです。まぁ安心してください。私のシナリオでは、あなたは世界を救う勇者となる…ただそれはあなたの姿形をした意思無き人形ですがね……では、さようなら勇者サトウ」
人が変わった様にルイが冷たく言い放つとケイを包んでいた光が収束しだす。同時に激しい頭痛がケイを襲い始める。
「うわああぁあああああああ!!!!」
ふと気づくと真っ暗闇の中、落ちているのかどうかも分からない奇妙な浮遊感の中にいた。
――あれ?ここどこだ?………いや、それより俺は…誰だ?
お前の名はサトウ。ルイ様の忠実なる僕だ。
――サトウ…?そうだ俺の名前はサトウだ。
そうだ、サトウ。さぁその身をルイ様に捧げるのだ。
――ルイ様……そうだ俺はルイ様の…
『こら!いつまで寝てんのよ!』
――え…君は誰だ?
『な~に?まだ寝ぼけているの?も~う…だから言ったじゃない、朝寝坊しちゃうって!いい加減に起きなさい――
ああ、そうだ。俺は…俺の名前は…
――ケイっ!!』
おはよう、姉ちゃん。
夢の中でまだ子供だった自分と姉が笑った気がした――
光の拘束から抜け出すと突然の事で呆気に取られていたルイを押し倒し、部屋にあった唯一の扉へ駆け込んだ。
「何をしている!追え!追うんだ!!」
ローブを纏った人影が後を追いかけてくるのをチラリと確認し右も左も分からない迷宮のような通路を必死に走る。
「ちょっとぉ、私ですら把握できてないこの地下迷宮を何で迷わずにいけるのよん?!」
自分でも分からないがただ足が何かに導かれるように動く。そしてローブの人物と徐々に差を広げていく中で頭に聞いたことのあるような声が響いた。
――さぁ、扉は開かれたよ――




