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真実は闇の中

今回は少し長めになります。

「最初におやっと思ったのはオークの動きですね。雨音に紛れて馬車を囲うなんて動きをオークはしないですからね、基本的に群れても団体行動が成ってませんから。あとはこの新品同様のロングソードですね。オークが持つにしては綺麗過ぎるんですよ……つまり、先ほどのオーク襲撃事件は仕組まれたもの…真犯人がいます!」

名探偵のような口ぶりで自分の推理を披露するセリカ。そして徐にキャビンの後ろに付いている小窓を開け後方数メートルで馬車を追走する3匹の馬に乗った3人の人影に向かって指を指す。

「そう、犯人はお前達だぁ!!って危なっっ!!何するんですか!!」

小窓へ向かって跳んできた矢を咄嗟にその場にあった鍋の蓋で防ぎ、そのまま投げつける。1人に命中したが大した効果はなく追走を止める気配はない。

「どうしたもんですかね~」




――10分前――


「ほ~ら、思ったとおりこのロングソードに細工がしてありましたよ」

先ほどオークから回収したロングソードに妙な気配を感じたセリカが復号魔法(ディコード)を使ったところ洗脳魔法の術式が施されていることが判明した。洗脳魔法と言っても行動に一定の指向性を与えるだけのものであったが『馬車を襲う』だけなら十分だ。

「じゃあさっきのオーク達は操られていたってこと?にしては私の踊りに嵌ってたけど」

「弱い洗脳魔法ですからね~、アーニャの踊りの方が強力だったのでしょう。それより問題はこのロングソードを私が持っていることですけどね」

「なんで?」

「魔物を操って馬車を襲わせていたという証拠品ですもの。洗脳魔法の術式をちゃんと紐解けば誰の命令を聞くように設定されているか分かりますからね」

「それってつまり…」

「持ち主がこのロングソードを取り返しに来ると思いますよ」

「じゃあ、捨てちゃいなさいよそんなの」

「商人にモノを捨てるなんて出来るとお思いですか?それにもう遅いですよ」

雨音や馬車の車輪の回る音に混じって後ろから蹄鉄が地面を踏み蹴る音が聞こえてきた――――






「とりあえず馬車止めてもらっていいですか?」

腕を組んで状況を整理していたセリカは思いついたように御者のお兄さんに言うと、アンナと御者の青年はどちらも驚きの声を上げる。

「はぁ!?」

「な、何言っているんですか!?セリカさん!?」

「商談相手から逃げる必要もないかと思いまして…」

「商談相手?さっきあんた弓矢で射られかけたじゃない!?」

「それはそれ。これはこれです。何かあっても奥の手は2~3個あるんで大丈夫ですよ」




急激にスピードを落とし停車した前方の馬車に後続の馬に乗った人影もその場で止まる。

「…罠かもしれん」

武器を構えなおし警戒をしていると外套を羽織った1人の女がキャビンから出て来た。


「代表者の人いますか?」

外套を深く被った3人の人達は顔がよく見えないので一体どんな表情をしているかも分からない。セリカはいつもの営業スマイルで敵意のないことを示すために商人ギルドのカードを見せながら続ける。

「私は行商人のセリカと申します。何か商品をご覧になりたい様でしたので馬車を止めたのですが…私の思い違いでしたか?」

先ほど弓を放った者が矢を番える。すると1人の人影が、それを手で制し馬から降りるとセリカに近づく。

「…俺が代表者だ」

「顔を隠していますけど随分と恥ずかしがり屋さんですね~まぁなんでもいいですけど」

「商品を見せると言ったな?何を見せるというんだ」

「あなた達の欲しがっているものですよ」

オークから回収したロングソードを取り出して見せる。

「変な事は考えないほうがいいですよ?」

対峙する代表者の男の右手が腰に挿している武器へと動こうとしたのをセリカは見逃さない。

「商人から商品を買う方法じゃありませんよね?それ」

「…賊なら正しい方法だと思うが」

「あなた方が本当に賊なら私も然るべき方法をとるだけです。ただそれは面倒なので、こうして穏便に済まそうとしているのですから聞き分けよくしてくれると助かるんですがね」

「……」

「私はこのロングソードを売ってお金を手に入れる。あなた方はロングソードを手に入れる。お得じゃないですか?お互いに」

「このロングソードについて調べたんだろう?秘密を知られたからには死んでもらう」

「私は商人ですよ?心配しなくてもお客様の知られたくない事には一切関与いたしませんよ。ましてそれがどこかの国の軍隊であるならなおさらです」

「貴様どこまで知っているっ!」

男が剣を抜きセリカへ切っ先を向ける。

「…剣先を向けたという事は商談は決裂した…ということでよろしいですか?」

表情や声色を変えずにあくまで笑顔を作り続けるセリカ。その笑顔は交渉が決裂したほうが都合がいい、そう思っているようにも見える。

「ちっ……いくらだ?」

「拾い物なので銀貨5枚でいいですよ」

男が金貨を1枚取り出し渡すとセリカからロングソードをひったくる様にして取る。

「釣りはいらない。この意味が分かるな?」

「このまま五体満足でいられたら理解して差し上げますよ」

後ろで先ほどから弓矢を引き絞っている者を眼を細めながら見ながらセリカは言う。

「おい、弓を下ろせ」

代表者の男が弓矢を下ろさせる。

「商談成立ですね。またのご利用をお待ちしていますよ♪」






「いいんですか?あの馬車を放って置いて…」

ロングソードを回収した3人が馬を走らせ元来た道を戻っていると1人が口を開いた。代表者の男、もとい部隊長がそれに答える。

「あの商人がなぜギルドカードを見せたか分かるか?」

「身分を証明するためですよね?」

「半分正解だ。その時点で我々はあの馬車を処理することが出来なくなった。我々軍人は一般市民に手を出してはいけないからな。ましてや今は秘密任務の最中…我々はこの国にいない事になっている。それにあの商人は我々の正体に勘付いているようだったから下手に手を出すわけにはいかなかった…というわけだ」

「もう半分は何です?」

「『自分のことを信用しろ』という事だ。商人が身分を晒すのは名前を売り込むのと同時に何かあれば責任を取るという意味合いを持つんだ」

「しかしそれだけでは…」

「どちらにせよ、馬車が止まった時点で我々はロングソードを買い取るしか方法はなかったよ」

「??」

「転移魔法だよ。あの馬車、いつでも転移できるように準備をしていたんだ…っとそろそろ目的地だな」






「結局、あの人達は何者だったの?」

アンナが金貨に細工がないか入念に調べているセリカに問いかける。

「お客様の情報をおいそれと話せませんよ。そういう約束ですし、忘れてしまうのが一番です」

金貨に何の細工がないことを確認すると満足げな顔をしてポーチに入れる。

「忘れるって言ったって魔物を洗脳しようとしていたのよ?気になるわ」

「世の中の冒険者の中には従魔師(モンスターテイマー)とか魔物を操る人達がいるじゃないですか。それと同じですよ」

「でもあのオーク達は私達を襲ってきたのよ!?」

「その件に関してはキッチリお礼をしていますよ♪」

そう言ってマジカルマッシュルームを見せながらニコリと笑うセリカ。

「な、何をしたの?」

「あのロングソードに強力な幻覚魔法を付け足したんですよ♪効果は一時的なものですが、魔物に持たせたら発動するようになってまして、持たせた直後に魔物を狂化状態にし、とある命令を下した者を襲うようにしてあります♪」






オークの群れが生息する森へ到着した三人組は早速手近のオークを生け捕りにし、ロングソードを持たせる。

「全く、嫌な任務ですね…やっている事はまるで賊、いや、魔王ですよ」

「文句を言うな。我々は上の命令に従うだけだ…『我の命令に従え 森の住人よ…」

「『魔物の軍事利用』でしたっけ?そりゃ魔物なんて腐るほどいるから実用化すれば大きな戦力になるけど実験段階として馬車を襲わせるのは何か違う気がするん……え?」

洗脳魔法を行使していた部隊長がどさりと音を立てて地に倒れる。視界に映るのはロングソードを構えた、通常より一回り大きく体色がどす黒く変色したオーク。

「た、隊長…?」

「こ、この野郎!!」

残った2人がすぐさま武器を構える。

「プギィイイイイイイイ!!」





5分ほど経つと、オークの身体は元の大きさに戻り体色も元の赤みがかかった茶色に戻った。オークは自分が何をしていたのか覚えておらず、なぜか手に持っていた折れたロングソードを不思議そうに見つめた後、その場に捨て、森の奥に消えていった。








「―…とかなってるんじゃないですか?」

セリカが三人組のその後の事を想像して話す。

「う~わ、それえぐいわね…」

「まぁ、一般人等を襲わせるような命令を下さなければ何の問題もないですけどね。むしろ、狂化状態で魔物を操れるので従魔師(モンスターテイマー)には持って来いですよ。1回限りの5分ほどだけですけどね」

「あの3人…どうなったのかな…」

「さあ?気にするだけ無駄ですよ。それにさっきから言っているでしょう?忘れてしまうのが一番です♪」

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