雨に舞う踊り子
30話目となりました。いつも読んでくださっている方ありがとうございます!新規で読み始めてくださった方もありがとうございます!
「雨が降ってきましたねぇ」
アンナがスライムを倒し終えた後、聖アテナイ国との国境を難なく抜けると雨が降り始めた。屋根付きのキャビンでは濡れる事はないが野ざらしになっている御車台ではそうもいかない。気になって御車台を見てみるといつの間にかお兄さんは外套に身を包ませている。行動が早いなと感心しているとアンナが鼻歌を歌い始める。
「…綺麗なメロディーですね」
「前に立ち寄った小国の歌よ。何でもその国の一部の人達は天候が操れるらしいわよ。ちなみに、今のが雨を呼ぶ歌らしいわ」
「…日程に支障が出るので雨を降らすのやめてくれます?」
「わ、私にそんな力あるわけないでしょ!」
「どうですかね~、先ほども魔物を操っていたわけですし天候も操れるんじゃないですか?」
「あれは踊りと歌自体が魔術で、対象の心身を掌握するものよ。自然現象なんて操れないわ」
「ほほう、洗脳魔法ですか?」
「ちょっと違うわね。どちらかというと魅了魔法が近いかしら?私の踊りに文字どおり心を奪われるってね」
妖艶な笑顔を作ってみせるアンナ。セリカはそんなアンナの胸をチラ見する。
「小悪魔系って奴ですね。玉に瑕ですけど」
「?どういう意味?」
「アーニャは可愛らしいってことですよ」
しばらくは水しぶきを飛ばしながら走る馬車であったがスピードを徐々に落とし、やがて完全に止まった。
「セリカさん、魔物です」
馬車は二足歩行をする豚のような魔物、オークに囲まれていた。体長は人間ほどであるが、豚と違って知能が低く剣や槍で武装をするのがやっとのことという話を聞いたことがあったが、こういった馬車を囲む事もできるようだ。
「雨音に紛れて気づきませんでしたね。結構知能あるんですかね?…いや、そうでもないですね。囲んでる割に間がバラバラで場所によっては余裕で突破できるじゃないですか」
「と、突破するんですか?」
「冗談ですよ。アーニャー出番ですよー」
「はーいはい、分かってるわよ。はぁ…雨降ってるから濡れちゃうわね…巻きでいくわ」
キャビンから飛び出し、地面に降り立ちポーズをとるアンナ。全部で6体いたオークはその派手なアンナの登場に視線を奪われる。
「掴みはオッケーね。それじゃあスピーダ行くわよ」
軽快なステップと共にダガーをくるくると手元で回す。地面のぬかるみを感じさせないそのステップは徐々にテンポが上がっていく。
「プギャアアアア!!」「ブギィィィィ!!」
そしてアンナの踊りに眼を奪われたオーク達は急所を一突きされ順に断末魔を上げていくが、それはアンナにとっては踊りを賞賛するハレオだ。やがて、すべてのハレオが止むとアンナは決めポーズと共に深々と礼をする。
「おおおお!ブラボー!!」
「ひゅーひゅー!!」
「ヒヒーーン!!」
アンナの踊りにセリカ、御者の青年、馬車を引く馬がそれぞれ拍手を送る。
「結構気持ちよかったわね。雨の中ってのも悪くないかもね」
「じゃ、素材集めの時間ですね。お手伝いお願いします♪」
ふふんっと鼻を鳴らし得意げな顔をするアンナに麻袋を渡すセリカ。セリカはいつの間にか雨に濡れない様にと外套を被っている。
「……麻袋の前に私にも外套渡しなさいよね」
「そういえばオークの持つ武器って自分達で作っているのかしら?」
外套を被ったアンナがオークの爪と牙を剥ぎ取りながらふと思った事を口に出す。
「自分達で作っているとしたら知能が低いというのは間違いになりますよね。まあ無能ってわけじゃなさそうですし、ありえるかもしれません。けど、人から奪ったとか冒険者達がその辺に捨てた使い古しとかが妥当なんじゃないですか?」
オークの使用していた武器を検品しながら拾い集めるセリカがそれに答える。どれも手入れが悪く所々刃毀れしており、物によってはポッキリ折れている物も錆びている物もある。
「あー、確かにそうかもね。私は売るか鍛え直して使うけど結構捨てちゃう人もいるもんね」
「ま、後は誰かが意図的に魔物に武器を持たせているとか…ですかね!」
刃毀れも錆びもないほとんど新品のようなロングソードを見せながらニコリと笑うセリカ。
「そんな事してどんな意味があるのよ」
「色々ありますよ?人を襲わせてピンチのところを助けてお礼をふんだくるとか、怪我をしていれば薬を売りつけるとか、洗脳できるのであればそのまま武力にもなりますね」
「嫌な話ね…まるで魔王じゃないの」
ボヤキながらも剥ぎ取りを続けるアンナ。一方でセリカはロングソードを難しい顔で眺めている。
このロングソード…使い古しにしては新しすぎるし、妙な気配を感じますが欠陥商品でもない。武器商人が襲われでもしたのかあるいは、武器が呪われでもしたから冒険者が捨てていったのか……それとも『魔王』の仕業か……
キョロキョロと周囲を見渡すと雨足は強く、太陽も沈みかけているために数百メートル先は何も見えない。
「アーニャ。キャビンに戻りますよ」
「?まだ全部剥ぎきれてないわよ?」
「いいんですよ、武器は全部頂きましたし用心に越した事はないですからね」
「用心?」
アーニャの背中をぐいぐい押しすぐ傍で待機していた馬車に乗り込む。
「お兄さん、この近くの村、もしくは町までどれくらいですか?」
「?そうですね、2~3時間ほど行ったところに小さいですけど町がありますよ。一応今夜の宿泊予定地ですけど」
「それじゃ、そこまでノンストップで行きましょう!」
「…何かあったんですか?」
セリカにどこか違和感を覚えた御者のお兄さんの顔に緊張が走る。
「いえ?今のところは何も。ただこれから何か起きるかもしれませんけどね♪」
セリカはただいつもの営業スマイルを返した。




