時を止める方法
元の姿に戻ったアンナは頭を抱え蹲っていた。セリカは意地の悪い笑みを浮かべながら毛布を頭から被っているアンナに問いかける
「気分はどうですか?」
「……最悪だわ」
「気分は良好っと…」
アンナの状態を様子見ながら薬の作用、副作用等を羊皮紙に書き記す。どうやらこの薬は性格が反転してしまう副作用を持っているようだ。アンナの様子を見るに変身時の記憶は残っているようだ。
「この薬はまだまだ改良が必要ですね」
「……」
「まずは唯一の欠点と言える『味』ですね」
「他に直すところあるでしょ!!一体この薬に何を入れたのよ!!」
「さっき説明したじゃないですか…マジカルマッシュルームをはじめとして強い幻覚を見せる毒草を入れたって。要は、使用者の心身に細胞レベルに幻覚魔法をかけて見てくれを変える薬ですね。本家の年齢詐称には及びませんが、効果はほぼ一緒のはずですよ」
「そ、それって変な影響はないの?細胞レベルって…」
「問題ないですよ?イメージ的にはぴったりフィットする着ぐるみを着る~みたいな感じなので。身体を壊す薬なんて売れませんもの。もっとも、性格にまで幻覚魔法がかかってしまうみたいですが、乱心、錯乱するわけでもなく、ちょおっと『あれ?なんか雰囲気変わった?』となるみたいですがね」
「十分欠陥商品じゃない!」
「はうぅ…そ、そんなに怒らないでくださいぃぃ」
腰を捩じらせながら大人アンナの口調を真似るセリカにアンナの拳がクリーンヒットする。
「殴るわよ?」
「そ、それ殴ってから言う台詞じゃないですよ…」
「まぁとりあえずは成功したという事で、キャンディー型にしてみましたぁ!『味』を改良してお口さっぱりミント味ですよ♪」
飴玉程度の大きさの丸薬となった瓶詰めの薬をアンナに見せるセリカ。
「一体いつの間に…というかそれ、売り出すのやめときなさいよ」
「何を言っているんです?何のためにこの薬を作ったと…」
「私も今気づいたんだけど、それ、この国の神秘…門外不出のモノを流用したものでしょ?それって国家機密の流用と同じで犯罪なんじゃないの?」
セリカの時が止まる。スルリと手から落ちた瓶を間一髪アンナがキャッチするもセリカはゆっくりと膝から崩れ落ちる。
「ま、まぁ!売らなきゃいいのよ!個人的に使うなら問題ないと思うわ!…たぶんだけど」
「うふふ……さようなら私の短い第二の人生。こんにちは新たな人生…」
「お、大げさねぇ!大丈夫よ!たまたまこの薬が出来ちゃっただけでしょ?死刑になんてならないわよ!犯罪だったとしてもちょっとの罰金で済むと思うわ!」
「国家機密流用の罰金……?……じ、自己破産申請書って…どこで貰えますか…?」
重い空気を体中から醸し出すセリカをなんとか励まそうとするアンナ。すると部屋のドアが開くと同時に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「まったく、お前は有能なんだかなんだか分からんな」
「だ、誰よ?って騎士様!?ちょっと待って!この商人は確かに薬を作ったけどまだ売りに出してはないわ!」
「?いつもの相部屋か?セリカ」
「ヨ、ヨハネさん?」
「え!?知り合いなの!?」
なぜか甲冑を着込んだヨハネが部屋に入ってきていた。ギギギギとゆっくり顔を向けるセリカのこの世の終わりといったような表情に思わず噴き出すヨハネ。
「ぷふっ…あーゴホン、騎士団での用事が終わったんでな。それと、セリカは聖アテナイ国に向かいたいということで、明日の昼の聖アテナイ国行きの馬車を手配しておいた。費用はエルザ様が負担して下った。礼を言っておくんだぞ?私は私の任務があるから、念のため言っておくが一緒には行かん。これでお別れだ。またどこかで会うと思うがな」
「聖アテナイ国……最早それも意味のないこと…どこか田舎の山奥に…」
「それとエルザ様からの言伝だ。えー、『セリカさん、あなたが年齢詐称に対して復号魔法を使ったことは知っています…」
「ぶふぅっ!!」
ばれていないと思っていた復号魔法がもろバレしていた。
「ちょっと、あんた…何しでかしてんのよ…極刑決定よ。極刑」
散々フォローしていたアンナもこれには流石にあきれ果てている。
「ちなみに私も気づいていたぞ」
ヨハネがはははと笑う。
「ま、マジですか…」
「セリカの近くにいたしな。…あー続けるぞ?『恐らく魔法が発動しない事に四苦八苦した事でしょう。魔力枯渇を起こすまで試したのではないでしょうか?…」
はい、仰るとおり魔力枯渇を起こしました。
「『しかし、諦めずにきっとあなたは年齢詐称の術式を流用し何らかの成果を得る事だと思います。本来は復号魔法を使った時点で極刑ですが条件付でその事に目を瞑ろうと思います…」
「じょ、条件ですか?」
「『第一に特例としてあなたの薬の無償提供、及びこの術を形にした努力と才能に免じて個人で年齢詐称に関する魔法等の使用は許可いたします。が、それを誰かに売ったり術式を教えることは許しません。問答無用で極刑です。というわけであなたの居場所を常に私に分かるようにさせていただきます。第二に他国への帰属は許しません。あなたが国に帰属する場合は我がフラワ国でのみ許可します。破れば極刑です。第三に我が国に損害を与えるような行為は許しません。分かっていると思いますが極刑です。第四に私の事をババアと思ってはいけません。極刑です』…だそうだ」
「許してくださるのはありがたいですが、途中からなんかおかしくありませんか?」
「知らん。私は一字一句間違えずに伝えただけだ。で、異論はないな?」
「元よりどこかの国に帰属するつもりもありませんし、条件としては特に問題ないです。むしろ首の皮繋がってホッとしてます。ほぼフラワ国に帰属したのと同じ気がしますが…」
「言うな。これでも寛大な処置だと思うぞ?条件さえ守れば基本的には自由にして良いそうだからな。でだ、早速だが位置情報の提示契約を結んでもらうぞ」
懐から魔法陣のかかれた巻物を取り出し広げるヨハネに促されるまま魔法陣の中央に血印を押す。すると魔法陣が淡く発光しそれに呼応するようにセリカの身体も発光する。
「契約完了だな。これでセリカの位置情報は常にエルザ様の知る事となる」
「一時は死を覚悟しましたがよかったです…」
枷は付いたもののなんとか生きながらう事が出来ると分かったセリカは脱力しペタンと座り込む。そしてヨハネが巻物を懐にしまいかけた時、セリカの隣で話を黙って聞いていたアンナが不意に口を開く。
「あのさ、1ついい?私、セリカの薬の存在を知っちゃってるというか実際に体験したんだけど、これって大丈夫?第一の条件に引っ掛からない?」
セリカとヨハネの時が止まる。
「えっと、黙ってたほうがよかった?で、でも!私こういうの確認しないと後で怖いし!!」
極刑です☆
セリカとヨハネの脳裏に笑みを浮かべて極刑を申し付けるエルザ様の御姿が浮かんだ。




