薬品の匂いを嗅ぐ時は手を仰ぐようにして嗅いでくださいね♪
――…門外不出の神秘としていますが洩れたところで、この魔法の発動条件を満たす事は無理ですからね。なんせあの魔法はフラワ国皇族にのみ使える魔法。私の血縁者でもなければ使えませんからね…――
「…とかそんな所でしょうねー」
魔力枯渇による頭痛が治まるまで仮眠を取ったセリカは目が覚めるなり何故魔法が発動しないのかを考えた結果「皇族にしか使えない」という結論に至った。
「皇族一族に伝わる神秘らしいですし、その説が濃厚そうですよねー…」
床で仮眠を取っていたせいで痛めた背中を擦りながら羊皮紙に書き出した年齢詐称の魔法術式を睨む。
「術式は判明したのですから何とか流用できないでしょうかね…」
何か使えそうなものはないかとリュックを漁っていると1つの麻袋が目に入る。
「ヨハネさんが取ってきた毒草……うふふふふふ、私は諦めませんよぉ♪」
ニヤニヤと笑いを浮かべながら麻袋に手を突っ込んだ。
セリカの宿泊している隣の部屋に1人の女性が宿泊していた。真紅の髪をふたつ結びにしたツリ目のその少女の名前はアンナ。アンナは先ほどから部屋に異様な匂いが立ち込めていることに顔を顰めていた。
「さっきからこの匂いはなんなのよ!もう!!」
店主に文句を言ってやろうと部屋を出ると匂いが一層強くなり咄嗟にチクチクと痛みを伴い始めた鼻をつまむ。どうやら匂いは隣の部屋から漏れてきているようだ。
「ちょっと!あなたの部屋から変なにおいがするんだけど!!」
ドアを強くノックするが中から返事はない。鍵が開いているようだったので問答無用で開けると匂いがさらにきつくなる。
「くっっ!!ちょっと!!あなた何をしているのよ!!外まで匂いがっ…」
部屋には麻袋から顔を覗かせている派手な色をした草花と怪しげな色をした液体の入ったビンを片手に白目を剥いている女性が床に横たわっていた。
「き、きゃあああああああああああああ!!!!」
「はっ!!な、何事ですか!?」
セリカは突如鳴り響いた女性の悲鳴に飛び起きる。
「…あれ?私、何していたんでしたっけ?………って、くさっ!!ああもう!換気するのを忘れていました」
部屋に充満している匂いに鼻を押さえつつ窓を開けて微弱な風魔法を使って換気する。
「う~ん……どうやら気絶していたみたいです…ってあなた何ですか?ここは私の部屋…はっ!!まさか泥棒さんですか!?私から物を取るなんてさせませんよ!」
ドアの前に立ち尽くしているアンナに向かって構えるセリカ。
「あ、あんたが何なのよ!!」
「いやぁ申し訳ないです。お騒がせいたしまして…あ、私行商人のセリカと言います」
事のあらましをアンナから聞かされたセリカは謝罪をしながら事の経緯を話し始めた。
「…それじゃ、あなたは新しい魔法薬を作っていたと」
「はい!」
「それでその時に燻した毒草の煙を吸い込んで気絶したらしいと」
「はい!」
「それでその煙が充満してって、ただの迷惑行為じゃないの!!」
アンナと名乗った少女にこってりと絞られる。アンナの発見が早かった事もあり、匂いの被害はセリカとアンナの部屋に留まり、毒草の煙を吸い込んだセリカの身体も特に異常は無かった。
「次作る時はちゃんと換気をします」
「そういうことじゃないでしょ!」
一頻りアンナが説教を垂れている間セリカはどんどんシュンとしていくのであった。
「それで、なんの魔法薬なのよ。それ、毒草使ったんでしょ?危ないじゃない」
怪しげな色をしている液体の入ったビンを指差しながらアンナは問いかける。どうやらまだまだ解放してくれそうにないようだ。
「……企業秘密です」
「私、あなたの恩人よね?」
「……まだ開発途中なので」
「何を作ろうとしているの??」
「ぐぬぬ……」
「ぐぬぬじゃないわよ」
「ね、年齢詐称の魔法薬です…」
「え、ちょっとそれって確かこの国の神秘とも言われてる魔法の薬版って事!?」
観念して答えると途端に目の色を変えるアンナ。年齢を自在に変えられるなんて女性には夢のような話だ。
「それ、私にも頂戴よ」
「だ、だめですよ!まだ試薬品の段階で完成していないですし、私はこれで貧乏商人卒業するんですから!」
「あら?私があなたを発見しなかったら今頃毒草の煙が充満した部屋であなたは一体どうなっていたのかしら?」
したり顔でふふんと鼻を鳴らすアンナに返す言葉もない。
「ぐぬぬ…」
「ぐぬぬじゃないわよ…ってあんたそれ気に入ってるの?」
「悪用されないとも限りませんからよく知らない人にさしあげ…」
「私の名前はアンナ。旅の踊り子よ。一応冒険者ギルドに副業で所属していてランクはD。これがギルドカードよ。これでいい?」
ギルドカードをずいっと突きつけながら軽くステップを踏んで踊って見せるアンナ。踊り子という割には体つきは貧相だがステップを見る限り実力はあるようだ。
「こ、この薬の使用目的を…」
「聖アテナイ国で開かれるフェスティバルの催しに踊り子のコンテストがあるの。当然私も腕試しで出るつもりだったんだけど年齢制限っというか事前受付の奴が私の胸を見るなり7、8年後に来いとか言ったから。この国に来れば年齢詐称の神秘…は手に入らなくても豊胸くらいならと思って来国したの。それで今あなたと出会ったってわけよ」
聞いていないことまでスラスラと答えるアンナはまだ不服かと言わんばかりだ。これは観念するしかなさそうだ。何より試薬品のサンプリングとしてちょうどいいかもしれない。
「…分かりました。いくつか注意事項があります」
薬を少量入れたカップをアンナに渡しながら薬の説明をする。
「いいですか?この薬には私が復号…えー、独自に入手した年齢詐称の魔術式を元に新たに組んだ魔術式を加えてあります。年齢詐称は幻覚魔法の一種だと考えた私は、飲むと強い幻覚を見せるマジカルマッシュルームを…」
「これを飲めばいいのね?」
「…ちゃんと聞かないと危険ですよ」
「危なくなったらあなたが解毒でもなんでもするんでしょ?これは新薬のサンプリング…私はあくまで協力者でしょ?」
そう言って薬を一気に飲み干すアンナ。
「まっっず~~いっっ!!何よこれぇ…」
苦虫を噛み潰したかのような顔をするアンナだったが直ぐに身体が発光しだす。
「後はなりたい年齢を念じるだけです。…理論上は」
説明する間もなくストロボを焚いたように一瞬強く光るアンナに目が眩む。
「目がちかちかします…」
だんだんと目が慣れてきたセリカが見たアンナの姿は、先ほどの少女の姿ではなく、身長もすらっと伸び、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだまさに理想体型。
「おおお……これは成功ですね?うふふふ、これでジャンジャン稼げそうです♪唯一の欠点は服の大きさは変わらない事ですね」
着ていた服はエルザのように破れたわけではないがパッツパツで身体の線を一層強調している。見る人が見たらこんな踊り子も需要がありそうだ。
「気分はどうです?アンナさん。一応見たところは副作用はなさそうなんですけど…」
自分の身体をまじまじと見つめるアンナに気分を伺う。
「…は……」
「…は?」
アンナの顔がみるみる上気していく。
「はずかしぃですぅぅぅ…//」
胸を隠すように腕で押さえながらその場に座り込んでしまうアンナ。
「……副作用ありましたね」
「はうぅぅ…あ、あのセリカさん!なにか羽織るものを貸してくださいぃ…」
涙目で訴えるアンナに毛布を渡すセリカは、
「…これはこれでありですね。ていうかやばい。何かに目覚めそうです」
何かに目覚めかけていた。




