皇女エルザ
玉座に座る見た目10歳ほどの少女は正真正銘の皇女エルザであった。なんでも皇族に代々伝わる年齢詐称の魔法を使っているらしく、実年齢はもっと上らしい(教えてくれなかった)。流石は愛と美の国の皇族である。若く美しい姿を保つための魔法なのだろう。しかし、年齢を自由に変える事のできる魔法なんて聞いたこともない。
「…でもなんで子供の姿をしているんですか?」
「この姿でいると食事が少量で済みますし、ベッドも大きく感じていい事だらけなんですよ」
「なるほど~。てっきり年齢のコンプレックスかと。ほら、実年齢がすごい高い人ほど若い格好をするというか、なんでしたっけ?たしかロリババ…」
いつか感じた首元にヒヤリとした感触…
いつの間にか護衛の兵士とヨハネさんが四方から剣を突きつけられていた。というかヨハネさんもですか。ちらっとヨハネを見ると「粗相はするなと言っただろう」と目で語ってきている。いやでも大抵こういうのってババ
「何か言いましたか?」
まるで思っている事を読み取ったかのようなタイミングで玉座から笑顔で問いかけるエルザ。だが、その目は笑っていない上に部屋中をエルザの魔力が覆い始めている。
「いえっ!何も言っていないです!!それよりエルザ様はわたくしめに何か御用があると伺いましたが一体なんでしょうか!!」
声が裏返りながら背筋を正す。
「…こう見えてもこの国の長です。言葉は選んでくださいね」
エルザ様が右手を上げるとセリカを取り囲んでいた兵士達とヨハネは剣を鞘に納めそれぞれの場所に戻る。いつの間にか部屋を覆っていた魔力も無くなっており少しホッとする。
「さて、勇者召喚の話は知っていますね?」
「はい。今から4日後に儀式があるとか…」
「そうです。そして勇者は名目上、聖アテナイ国に帰属する事となりますが、どの国も勇者を引き抜こうとしています」
どうやら異世界から召喚される勇者は特殊な技能が使えるらしい。そのスキルがとんでもないとか……最も、あくまで昔魔王を倒した異世界の勇者の伝説上の話しの上、今回召喚される勇者が同じようにスキル持ちとは限らないが…
「私達も最初はそのつもりでしたが、ある面白い噂を聞きましてね。特級ポーションを銀貨3枚で作り、さらに我が国の騎士と懇意にしているとか……セリカさん、この国で薬師として働きませんか?」
「…一応聞いときますけど、何故私を?」
「勇者が『剣』だとすると、薬を作るあなたは『盾』です。我が国は『愛と美の国』と称されますがそれは優秀な『剣』である騎士や兵士が在ってこそ……彼らの築く平和の上に成り立っています。しかし、他国に勇者が帰属し、万が一にも戦争になれば負けるとは思いませんがタダではすまないでしょう」
「そこでまだ誰にも目を付けられていない『盾』の私ってわけですか」
「ええ。もちろん給金も弾みますし、場合によっては土地と地位も差し上げます」
「大盤振る舞いですねぇ。でも遠慮しときます」
「…こんな機会はめったにないですよ?」
「確かに魅力的なお話しですけど…逆に話が美味すぎて怖いです。それに私の薬は症状に合った物を処方しているので別に万能じゃありませんから治せないものは治せないです。なので特級ポーションを銀貨3枚で作ったという噂は間違いですから」
「そうなのですか?でもあなたの薬師としての腕は確かなのでしょう?」
「嫌というほど叩き込まれましたからね、自分で言うのもなんですが中々の物だと思います。でも私にもやりたい事がありますから今回のお話はお断りさせていただきます。そもそも私は薬師じゃなくて商人ですしね」
「そうですか…残念ですね。では、いくつか薬を見せてもらってもいいですか?」
エルザ様は特にがっかりした様子もなく淡々と次の話題に切り替える。おそらく私が断るであろう事をヨハネさんから聞いていたのであろう。
「あ、はい。こちらに…」
鞄から薬を取り出しかけた時、ある考えが脳裏をよぎった。
愛と美の国の商品(主に美術品)は正直言って自分では扱えそうにない。だから、商品を売るだけで買う事はないと思っていた。けれど目の前に万人が、主に女性が欲しがるものがあるではないか。そう思った瞬間に目の前の利益はとても小さく見え、口から言葉が自然に出た。
「よかったら、いくつか無料で差し上げますよ?」
「…何が望みですか?」
やはりエルザ様は只者ではないようだ。一瞬で意図を読まれてしまった。読まれてしまったのなら隠す必要も遠まわしにする必要もないだろう。
「年齢詐称の魔法を教えてください♪」




