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隣国へ

「いま席がいっぱいでね、空きがあるのは一週間後だな。皆考える事は一緒だと言うわけだ」

町の乗合馬車集会所に訪れると既に聖アテナイ国行きの馬車は満席だった。一週間後に乗れると言っても聖アテナイ国に着くころには勇者召喚はおろかフェスティバルも終わってしまう。どうしたもんかと思案していると見知った顔が声をかけてきた。


「セリカ!こんな所にいたのか。ずいぶん探したぞ」

「ヨハネさん?郵便所に行っていたのでは?」

ヨハネは今朝、自国との連絡を取るために郵便所に行くと言って私と別行動をしていた。勇者召喚が決定した事によってそれぞれの国の情勢が変わる。一国の騎士であるヨハネは国の指示を仰がなければいけないから当然の事だ。そんなヨハネが自分を探していた事に疑問を覚え首を傾げているとヨハネが一枚の書状を手にして言う。

「セリカ、私とフワラ国に来て欲しい。我らが国の皇女エルザ様は勇者よりも君の薬に興味があるらしく、見つけたら連れて来て欲しいとの事なんだ」

「え?嫌ですよ」

「嫌って…何故だ!?一国の主の直々の呼び出しだぞ!?君にとっても悪い話ではないだろう?」

断れると思ってなかったのかヨハネは途端に慌てだす。

「私にとっては勇者の方が興味あるんですよ。一刻も早く聖アテナイ国に行きたいんですよね。一国の主よりも♪」

「そ、そこをなんとか頼む!実はもう知り合いだから連れて行けると返事を送ってしまったんだ!」

シャレも無視して涙目で頼み込むヨハネが少し可愛そうに思えてきた。忠誠を誓っている相手が探している人と自分が知り合いだったのだから嬉々として返事を書いたのが容易に想像できる。

「…分かりました。ではフワラ国に行きましょう」

「ほ、本当か?よし、ならすぐに出発しよう!今から行けば明日の日没にはフワラ国に着く!馬の準備は出来ているからな!」

先ほどとは打って変わって明るくなるヨハネを手で制す。

「旅費、出張費、その他諸々よろしくお願いしますね♪」

「…君は頼まれる立場になるとかなり強気になるというか……」

「よく言われます~」



ヨハネの用意した馬車は個人運送屋業のハンサムキャブだった。乗合馬車をバスとするならこちらはタクシーというわけだ。普段なら料金が高いので使う気にもなれないのだが奢りなら何も問題ない。キャビンに入ってみると四人も乗れば満員になってしまうくらいの広さであったが乗り心地は悪くない。色々と見ていると御者台からこの馬車の御者である青年がキャビンを覗き込んで声をかけてくる。

「では準備も整ったのでフワラ国に向かいます。道中のことに関しては…」

「分かっている。契約どおりにな」

既にキャビンで荷物を下ろし腰をかけているヨハネが答えると青年はニコリと笑い御者台に戻ると鞭の音と共に馬車は動きだす。そういえば別の国に行くのは初めてだなぁと思いながらセリカはヨハネと同じように荷物を下ろして腰をかけるのであった。

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