良薬は口に苦しと言うでしょう?
今回、つらつらと書いていき、ふと気づいたら長文となっておりました。
14話目になります。よろしくお願いいたします。
嘔吐きそうになりながらも必死に口元を押さえるカイルの母親とそれを見てニコニコと笑みを浮かべるセリカ。そんなセリカにカイルは抗議をする。
「セリカさん!これ大丈夫なの!?」
「薬効は保証しますよ?味は保証しませんけど」
カイルの母親の顔色は青色を通り越して黒色に近づいてきている。
「お、お母さん大丈夫!?」
カイルの問いにコクコクと頷きながらもその目は涙で濡れている。
「言っておきますけどお母様、早いとこ飲んだほうがいいですよ?味はどんどん悪くなるので」
「!!」
これ以上不味くなるのかとギョッとした顔をしたカイルの母親は慌てて飲み込もうとギュッと目をつぶる。
「噛まずに一気に飲むんですよ~」
ゴクンッと薬を飲み込んだカイルの母親は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。カイルはそれを心配そうに見つめている。
「お母さん大丈夫?」
「大丈夫よカイル…ただ…この世で一番不味い物を食べた気分…」
セリカは相変わらずの笑顔を浮かべたまま答える。
「私が前に生きてい…いえ、住んでいた国では『良薬は口に苦し』という言葉があって、良い薬ほど苦いけど、それだけ効き目があるって言われてるんですよ♪」
「それでもこれは…あまりにも…うぅ…口に後味が残ってて気持ち悪いです…」
「キャンディ食べます?味が混ざってひどい事になるかもしれませんが」
リュックからカラフルな色の小さな玉の入った広口のビンを取り出し、中から黄色い玉を取り出す。
「レモン味ならすっきりすると思います。アフターケアってことでタダでいいですよ♪」
「…いただきます」
カイルの母親がキャンディを口で転がしながらも時折水を飲んでいるところを見ると薬の味の強烈さが容易に想像できる。だが、それも何度も繰り返しているうちにマシになったようで、顔色もすっかり元通りになった。むしろよくなった気がするのは薬が効き始めたのだろう。
「…なんだか身体が楽になった気がします。いつの間にか頭痛も消えてて…」
「ほ、本当?お母さん?」
信じられないという顔をしたカイル親子にセリカは今度は赤黒く光沢のある直径1cm程の丸薬を渡す。
「では、第二ラウンドいきましょうか?」
「ありがとうございますセリカさん!おかげで元気になりました!」
第二、第三と薬を服用させ、全ての薬を飲み終えたころにはベッドから立ち上がってお礼を出来るくらいにカイルの母親は回復していた。顔色が信号機みたいに変わって面白かったですよ♪とは思っても言わない方がいいだろう。それ以前にこの世界に信号機はない。
「お母さんを助けてくれて…本当にありがとう!セリカさん!」
カイルは涙を流しながら感謝の意を述べてくれたので、作りこんだ営業スマイルではなく自然と笑みがこぼれたが、忘れてもらっては困る。こちらはあくまで商人だ。
「では、お会計の時間ですね」
「あ、はい。こちらに用意しております」
カイルの母親が銀貨3枚を箪笥の中の小包から取り出しセリカに渡そうとするがセリカはそれを受け取らない。
「あ、あの、セリカさん?」
「今回、私が提示した銀貨3枚という金額は材料費、調合費、それらを合わせた金額です。ですが、薬草は全てカイル君が採取しました。私はそれを調合したに過ぎません。なのでカイル君の採取した薬草を買い取ってそれを私が調合という形になるので、調合費のみをお支払い頂く事になるんですが、カイル君の頑張りもあって薬草採取分で調合費を上回っています。なので、その分銀貨1枚のお釣りになります」
セリカはポーチから銀貨1枚取り出し困惑しているカイルの母親に手渡す。
「それでは、またのご利用をお待ちしておりますよ♪」
リュックを背負い直しカイル家を出た。
「待ってよ!セリカさん!!」
宿屋に向かおうとするセリカを後ろからカイルが走って呼び止めてきた。なんかデジャヴだなぁと思いながら後ろを振り返る。
「まだ何か?」
「セリカさんは初めからこうするつもりだったの?」
「何の事ですかねぇ…」
「とぼけなくてもいいよ。僕に薬草を採る量を指示しておいて『薬草採取分で調合費を上回っています』だって?群生地の場所まで教えてくれて…そこまで分かっているなら自分で採取して調合した方が儲かったんじゃないの?」
「あら、確かに初めからそうすればよかったですね!勿体無いことをしましたぁ…」
わざとらしくがっかりするセリカにカイルは銀貨4枚を手渡そうとする。
「これはセリカさんの物だよ。薬草採取の分は盗みを働いた僕を騎士団に通報しないでくれた分で帳消しだよ」
「…ここではい、そうですかと銀貨を受け取るのは二流の商人です。私は過剰に儲ける事はしないんです」
そっとカイルの手を戻させ真面目な顔をして言い聞かせる。
「私にその銀貨を渡すならお母様と一緒にお腹いっぱい食べなさい。あなた達親子は栄養不足気味です。先ほどお母様に食べさせるように指示した食事をあなたもたまに食べるんですよ?でないとまた同じ病気になりますからね」
納得のいかないといった顔を浮かべるカイルに優しい笑みを浮かべる。
「…実は私、商人になったばかりで知名度がないんですよ~。誰か宣伝してくれると助かるんですけどねぇ~」
はっとした顔をするカイルにウインクをしてセリカは宿に向かった。
「ただいまもどりました~」
昨日泊まった宿屋の同じ部屋に帰るとお風呂上りであろう肌着姿で濡れた髪を拭いているヨハネが固まっていた。
「…セリカ、なぜまたここに?」
「お風呂付の宿屋ってなかなかないじゃないですか。それに私とヨハネさんの仲でしょう?」
「ハァ…まぁいい。お風呂空いているぞ」
「~♪」
「…というわけなんですよ」
お風呂を上り昨日と同じように部屋のテーブルで食事を取りながらカイル家での事を話す。話す気はなかったのだがヨハネがチラチラとこちらを見てきて落ち着いて食べる事もできなかったからだ。ヨハネもカイルの事情を知っていたので気になっていたのだろう。
「あ、このムニエル美味しいですね。なんの魚でしょうか?」
今回は早めに帰って来れたので宿屋の店主の料理にありつけた。追加料金が掛かるが値段も安く部屋でゆっくり食べられるため外で食べるより個人的に好きだ。限られた時間にしかやっていないのがネックだが…
「セリカは商人らしくないな」
話を黙って聞いていたヨハネが急に可笑しなことを言いだし、セリカの口に運び込まれていたムニエルがぽろっと落ちた。
「…ヨハネさんが急に訳の分からないことを言うから落としちゃったじゃないですか」
運よく皿に落ちただけだったので再び口に運びなおす。
「いや、私の知っている商人なら銀貨3枚を受け取ると思ってな…というか逆に払うとは…カイルの言う通りに自分でやった方が儲けたんじゃないか?」
「…短絡的ですねぇ。商人にとって大事なのはなんだと思いますか?」
「?お金…だろう?」
「他にも色々ありますけど…まぁいいでしょう。では商人の基本的な稼ぎ方は?」
「物を売る?」
「そうですね。では、昔からあって皆が知っている商店と、いきなり現れた見知らぬ行商人、どちらで買い物しますか?」
「…おお!そういうことか!」
「そういうことです。今回カイル君は私にとってプラスになる宣伝をしてくれるでしょう♪」
「すごいなセリカは!そんな事まで考えるとは!」
「普通だと思いますけどね…まぁそれが全てではないですけど」
「全てではない?」
「今回の件は私が一番得をしたって事です♪さ、お腹もいっぱいになった事ですし帳簿をつけませんとね!」
話は終わり、そう主張するように強引に話を切り上げると食器を片付け始めるセリカ、その横で消化不良な顔をしたヨハネはまだ残っている自分の食事をつついた。




