ロシアの昔話
「……あの、私の知りませんか」
その時のことは今でもはっきりと覚えている。やたらと寒かった12月、空き教室で補修をしていた俺にあいつが話しかけて来た日、あいつと俺の初めての出会い。
「白都さんだっけ、靴は知らないけど一緒に探そうか?」
正直この時は、善意なんてなかった。補修をサボるいい理由だ、くらいだろう。でも全く同情しないわけでもないし、クウォーターの美少女と過ごせるなんてラッキーって考えもあったことしれない。
「あ、ありがとうございます…」
「うん、じゃあ行こうか」
白都…シロは昔いじめられていた。この時はクラスが違ったからよく知らなかったけど、本人から聞いた話だと内気な性格が災いしたんだと思う。
「白都さんは話すの苦手なの?」
「えっと…どんな話したらいいのか分からなくて……」
俺自身も話すのは得意じゃないけど、何故か白都相手だとスラスラ喋れた。
結局この後靴は見つかって、その後一緒に帰った。
それからは、まあ守ってやろうと思って学校でよく一緒にいるようになった。効果があったかはわからないけど、辛そうな顔は減った気がした。
「あの、白都さんと俺を同じクラスにしてくれませんか。」
学年が上がる時に、思い切って教師に言ってみた。
彼女がいじめられていること、仲良くなってから少し緩和していること。出来る限り論理的に話して説得してみた。
どう返されたかは覚えていないけど、今は同じクラスになっている。
「おーいシロ、帰るぞ」
「ん…あれ、HRは?」
「もう終わった、ほら早く」
こいつはよく寝る、それはいいんだけど寝起きはスイッチが入らないのか昔の大人しいテンションになる。
「ねえ黒沢、なんで私のことシロって呼ぶの?」
珍しく本名で呼ばれた。
「お前がクロって呼んできたから呼び返しただけ、オセロみたいでいいじゃん」
「うん……帰ろっか」
目を擦りながら髪の毛をいじる姿に思わず目を背ける。普段こそ気にしてないが、たまに見せるこういう姿が反則級にかわいい。
「……………」
「?おいシロ、早く行くぞ」
「………………プクッ」
なんだこいつ、一瞬笑いやがった。何がそんなにおかしいんだ。
「おい、なんで笑って」
「だ、だって………クロが照れてそっぽ向いた顔が……………ぷくくっ」
よし、決めた。こいつは今日置いて帰ろう。
「おうそうか、じゃあ俺は急いでるからお前は一生そこで笑ってろ」
「ちょっ!ひどいよ!待っ……ぷくく」
知らん振りをして早足で歩く。珍しく今日は完敗だ。
この後走って追いかけられて、からかわれながら帰ったことも、言うまでもないだろう。