プロローグ
長いホイッスルが聴こえた。
試合終了を選手に伝えるためのホイッスルだった。
速鳥時雨は、久しぶりに落下する感覚を覚えた。
意識が飛びかけたが、地面に激突寸前で踏みとどまり無事着地することが出来た。そして、汗を滴らせながら、仲間のもとへと走った。
「やったな、時雨!」
前線に出ていたはずの唯一親友と呼べる、狩野紅蓮が何故か声をかけてきた。
「紅蓮、君、前へ出てたんじゃなかったの?」
「いやぁ、それがさ、この前転校してきた、あの、えーと、誰だっけ?」
「息吹竜牙って人?」
「そうそう、息吹だっけ。ソイツがメチャクチャ強くってさ、3秒もたたないうちに殺されちゃってさぁ。ホント、俺何にも出来なかったよ」
「え!?君がたった3秒で?いったいどう━」
会話は、フィールドのアナウンスによって遮られた。
『Sクラスの者は、08:28までに第4会議室に来なさい』
初老の女性の声だった。
「おい、今の声、確かあの鬼理事長の声だぜ。しかも、08:28だと、あと2分しかないじゃねえか!早く行けよ、エリートさん!」
紅蓮はそう冗談混じりにそう言った。時雨は苦笑しながら、
「うん、そうだね。じゃあ後でその話もう少し詳しく教えてね」と言った。
「オゥ!もちろん!」
紅蓮と別れ、グロウというカプセル式の乗り物に乗り込み、
「会議棟まで」
と短く機械に告げる。グロウの中はとても快適に作られており、先程かいた汗もほとんど乾いてしまうほど快適な環境だった。
そして、広大な学園のほとんど反対側に位置する〈会議棟〉に着き、時雨は、ワープルームに向かった。
『しかし、あの紅蓮がいとも簡単に殺されてしまうとは…。僕も注意したほうがいいかな。なんたって紅蓮は、魔力量だけなら僕より上だもんな。』
ワープルームの前につき、時雨は扉のすぐ横にある指紋認証装置に手をかざす。『ピピッ』と機会音が鳴り、目の前の扉が左右に開いた。扉の奥には、円状のワープ装置がいくつも並んでいた。
時雨は一番右奥のワープ装置を選び、『第4会議室』と入力してワープ装置の上に乗る。
ワープ時特有の浮遊感は未だに慣れないが、一瞬で異次元に着くことができるのだから文句など言えるわけがなかった。
本来異次元への移動は特殊な魔法を必要とし、ある一族しか行えないものだった。
しかし時雨は、機械史の授業など聞いていなかったため、この偉大な装置を誰が開発したかなど、全く知らなかった。
ワープした先は、〈第4会議室〉と書かれたプレートのある部屋だった。時雨は時計を見てから会議室の扉を開き、
「速鳥時雨、1分遅刻しました。」
と、教壇の前にどっかりと座っている理事長にやっと聞こえる声量で言う。
理事長は、なぜそんなに声が小さいのか、とか、なぜ顔を見て話さない、などの小言を行ったが、時雨はそれらを全て無視して自分の席につく。理事長は諦めたかのように静かになり再び教壇の椅子へ戻った。時雨は席につき、〈アピア〉と心の中で唱えた。すると、空気中の原子が反応し、〔ジジッ〕と怪しげな音をたてて、時雨の手の中に一冊の本が現れた。時雨は本を開き、他のSクラス生が来るのを待った。
10分程たったとき、
「白夜美咲叶、鈴ヶ森怜衣、12分遅刻しました!」
息を切らしながら、美咲叶が二人分の謝罪をした。
「ちょ、美咲叶、なんで美咲叶は、あんなに走ったのに、息切れしてないの!?」
と、更に荒い息で、美咲十の後ろから怜衣が来た。
「ちょっと怜衣、それでもSクラス生?」
などと、全く遅れたことを気にせずに、二人は話しながら席についた。
美咲叶たちの後にも、10人程生徒が来た。
「さて、今日皆さんを呼んだのは、転入生の息吹竜牙君を紹介するためです。」
と、全員が揃うと、理事長は話し始めた。
「息吹君は、あなた達の中でも上位の実力を示すと思われます。彼は、我が学園のテストを歴代でもトップクラスの点数で通過してきました。」
などと手元の資料を見ながら紹介をしている理事長とは対照的に、その隣の息吹は生徒を眺めることのできる余裕があるようだった。
『ふぅん、少しは殺しがいのある奴が入ってきたな。』
しばらく話していた理事長は、疲れてきたのか息吹に自己紹介を求めた。
「息吹竜牙、14歳。出身は、竜家です。」
後半の一言に、クラスの皆がざわめいた。
「竜家っていったら、この国で1、2を争う名門じゃない!」
「おい!あの紋章……!」
確かに竜牙のそれは、国で1、2を争う竜家のものだった。
『へぇ~、名門"竜家"の親族か。面白そうだな。』
時雨は久々に興奮を覚えた。
地味な制服に、それは怪しげに輝いて見えた。




