表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久なる狩人たちの挽歌  作者: 真狩トオル
9/24

第二章  「慟哭」 その参

「相変わらず天魔はうるせぇなぁ」

 天狗の一人がそう言うと、全員がやっと戦闘態勢に入る。全身から白っぽい半

透明のオーラを放出すると、可愛かった顔には鋭い嘴が現れ、表情も精悍に変化

した。そして短剣を引き抜き戦いに加わる。

 天狗達はヒラヒラと舞う蝶のように不規則に妖狐の周りを素早く飛び回り、隙

をみて短剣の先から神通力を電撃の如く飛ばし攻撃する。その攻撃力は弱いが確

実にヒットしていた。弱い攻撃でも、ボクサーが小刻みに繰り出すジャブのよう

に、繰り返せば徐々に効いてくるだろう。

 妖狐は邪魔な天狗達を一気に薙ぎ払おうと凄まじい業火を何度も吐き出す。だ

が天狗達は散り散りに素早く回避する。躱しきれない攻撃もあったが、それは天

魔がフォローし、魔法陣の盾で防いでいた。

「愛、こいつら邪魔なだけだ。口寄せなんか使わずに自分で戦え」

 天魔は明らかに苛立った表情で、愛を強く睨み付ける。

「悪かったな、弱くて。もう本気でやる気なくなったぜ」

 天狗の一人が天魔の後ろを飛びぬけ、後頭部に蹴りを一発入れて逃げた。

「もう疲れたから帰るな」

「って言うか、どうせ俺たちの力じゃ倒せないしな」

「愛、来てやった報酬を忘れるなよ」

 大した活躍もしなかった木の葉天狗達は、拗ねながらも偉そうに言う。因みに

口寄せした妖怪の中には、報酬を取る者が多くいた。

「分かってる。後でちゃんと山に送っておくよ。お菓子でいいんでしょ」

「イエーイ、お菓子ゲット!」

 天狗達はテンション高くそう言い残し、現れた時と同じように煙に包まれその

場より消えた。口寄せは、術者か対象者のどちらかが、術の発動停止を念じれば

簡単に解除できるようになっていた。

「愛、俺が奴の動きを完全に止める。その間にお前が仕留めろ」

 天魔は細めの巻物を二本取り出すと、透かさずオーラを纏わせ投げ広げる。巻

物に記されていた赤き呪文は天魔の念に反応し、金色に光り輝く。

 念で自在に操られた巻物は、生きている大蛇の如くクネクネと空中を動き、一

本が妖狐を牽制しているうちに、もう一本が凄まじい勢いで襲い掛かると、その

広がった長さに終わりがないように伸び続け、全身に巻き付いた。更にもう一本

も同じように透かさず巻き付く。すると巻物全体がバチバチと目に見えるほど強

力な電気を発生させ、妖狐の全身を包み込むと、金縛り状態で完全に動きを止め

た。

 妖狐は雄叫びを上げなんとか抜け出そうとしている。その妖力は底が知れぬほ

どに凄まじく、衰える事無く更に邪悪かつ強大に高まっていく。天魔は妖狐の力

を感じ取り、恐らくこの術で動きを止められるのはほんの数秒程だろうと分析し

ていた。

「何してる! 一発で止めを刺せ!」

 愛はこの期に及んでもまだ、攻撃するのを躊躇っていた。故に天魔の怒号が飛

んだ。

ハンターとして戦わねばならぬ宿命を背負う以上、嫌だからといって逃げ出す

訳にはいかない。元より逃げる場所など存在しない苛酷な世界に身を置いている

のだ。愛もそれは理解している。更に、殺るか殺られるか、殺られる前に殺れ、

それが戦場での鉄則であるはずなのに、愛は眼前で邪悪な妖気を放ち襲いくる妖

狐を見ても、不思議と戦う気になれなかった。

 既に攻撃を繰り出すにはタイミングを逸していた。それから数秒とせぬうちに

巻物の呪縛を強引に打ち破り、妖狐は動き出す。

 天魔は一旦巻物を手元に戻す。だがその時、何者かが妖狐の一瞬の隙をついて

強力な一撃を繰り出した。それは見事に直撃すると大爆発し、巨大な妖狐の体が

まるで子猫のように吹き飛ぶ。妖狐は校舎の壁に激突した後、瓦礫とともに地面

へと崩れ落ちた。

 その攻撃を放ったのは優樹だった。それがどういった技かは天魔には分からな

かったが、刹那に見たのは、炎で作られた巨大な龍の頭部が妖狐に襲い掛かる光

景であった。

「失礼しますよ。このまま二人だけでも倒せるでしょうけど、愛ちゃんは調子が

悪いようですから、私がお手伝いしましょう」

 優樹は攻撃を仕掛けた後、いつの間にか側に居たが、薫は更に素早く、指定席

だと言わんばかりに天魔の横を陣取っていた。

 妖狐は不意を突かれダメージを負ったが戦意喪失しておらず、ふらつきながら

も立ち上がると、近くにいれば鼓膜を破られそうなほど凄まじい雄叫びを上げ、

今までよりも強大な妖気を放つ。

「あら、しぶといわね。まだまだ遊び足りないみたいよ」

 薫は相変わらず緊張感なく、どこか楽しそうにしている。

 妖狐は大きく口を開けると、辺りを埋め尽くすほどの業火を吐き出す。しかし

天魔が立ちはだかり、瞬時に全員を囲む大きさの五芒星の魔法陣を、念じるだけ

でオーラを転化させ足元に作り出す。魔法陣は金色に輝き光の柱を上げると、炎

を完璧に防いだ。

 妖狐の口から離れた業火は光の柱を取り囲み、地面から直接噴き出すように消

える事無く燃え続ける。更に妖狐が何度も業火を吐き出すと、風に煽られた火の

如く、全てを焼き尽くそうと勢いを増していく。

「新堂さん、愛はダメです。あなたが攻撃してください。この炎の中でも一時的

に動けるように俺がサポートします」

 この戦闘での愛の存在は、既に天魔の頭の中からは排除されており、今は優樹

の強さを知るいいチャンスだと考えていた。

「分かりました。それでどうしますか」

 優樹は愛の様子を一度見てからそう答えた。愛は既にオーラを静めた状態であ

り、戦意喪失している。

「俺が新堂さんの体にシールドとなる結界を張ります」

 天魔は魔法陣を維持しながら巻物を一つ取り出し、オーラを纏わせ広げると念

を送る。すると巻物はまた生きているように動きだし、優樹の背中に天女の羽衣

の如く形を成し浮かんだ。そして巻物は強い輝きを放ち、優樹の周りを天野家特

有の金色のオーラで力強く包み込む。

「その状態なら炎の直撃を食らっても、数秒なら耐えられます」

 天魔は容易く二つの術を発動させたが、ただ強大な力を持っているだけでは複

数の術を同時には使えない。故にそのことだけでも、天魔たちが持って生まれた

天賦の才だけに頼らず、厳しい修行を積み重ねていることが分かる。

「素晴らしい術ですね。それでは行ってきますよ」

 優樹はオーラを一気に高め全身より放出する。それは情熱的な深紅のバラのよ

うな色をしており、金と赤の二つのオーラを纏った優樹は、不安な表情など微塵

も見せず、天魔を信用し、魔法陣から抜け出ると炎の中へ一瞬入った。

 業火に晒されても、防水加工された服が雨を弾くように、金色のオーラが炎を

防ぎ、優樹の体は焼かれずに無傷であった。優樹は透かさず間合いを詰め、妖狐

の方に向かって高くジャンプする。オーラを解放した状態の跳躍力は、普通の人

間の数倍であり、まさに超人と称していいレベルだった。

「凄いわ、天魔君の術。それにひきかえ、あなたはダメね、ふんっ!」

 薫は天魔には甘えた口調でクネクネしながら言ったが、意気消沈の愛の方を振

り向いた時には、鬼のように怖い形相で睨んでいた。

 しかし何故、愛は攻撃をしなかったのか。ただ攻撃が苦手だからという安易な

理由では済まされない。天魔はその事を疑問に思っている。

 高く飛び上がった優樹は、懐から巻物を取り出す。それは天魔が使っている物

と同じぐらいの大きさで、中には術を発動させるための朱書きの呪文がびっしり

と記されている。優樹は巻物にオーラを纏わせると、妖狐へ向かって投げ広げ、

透かさず念を送る。呪文はオーラと念に反応し、強い輝きを放つと炎を生み出し

全体を包み込む。巻物は一瞬で燃え尽きたが、炎は残ったままで勢いを増し、そ

の姿をまさに龍の顔のように変化させた。

 炎の龍は急降下して、獲物を狩る鷹のように妖狐へと襲い掛かる。妖狐は対抗

して業火を吐き出し応戦する。だが炎の龍は業火を物ともせず突き抜け、妖狐に

直撃すると大爆発した。

 妖狐の巨躯は爆発の衝撃で、背にしていた校舎の壁を突き破るほどまで吹き飛

んだ。だが驚くことに、妖狐は大きなダメージを負いながらも透かさず立ち上が

り、校舎の中から姿を現す。それは意地や根性というものではなく、まるで何者

かに操られて、その命が燃え尽きる瞬間まで戦おうとしているみたいだった。そ

して放たれる妖気は随分と衰えており、優樹の一撃で妖狐の意識が瞬間的に飛ん

だことで、天魔たちを襲っていた炎は消え去る。

「二度も直撃を食らっているのに、本当にタフな狐ですね」

 優樹は少し呆れ気味に発する。

























  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ