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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第1章 狩人の協力者
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梅宮学園高等学校

 「由紀ゆき、今日は学食? それとも購買でパン買う?」

 「今日のBランチってボンゴレらしいよ?」

 「じゃあ学食行こう、早く行かないと席が男子で埋まる!」


 午後の授業が終わり、昼休みのチャイムの鳴った教室には、学食や購買の争奪戦へ出陣して行く者と、穏やかに友達同士で集まり弁当を広げる者とが居たが、右を向いても左を向いても女子しか居ない。前にも、後ろにも、男子の姿は一人たりとも見かけない。


 喧騒の中、真弓は静かに立ち上がり、黒のバンダナで包んだ弁当箱を鞄から取り出し、一人教室を抜け出した。


 扉の上には洒落た風な黒文字で「1年A組」と書かれた白いプレートが掲げられている。

 隣はもちろんB組。その更に隣のC組の教室を通り過ぎ、2階3階へ上がる階段をも通り過ぎると廊下は右に折れ、ずらりと各クラスの下駄箱が並ぶ昇降口に出る。

 この角を境に、女子棟と共同棟に分けられ、あの昇降口の先で再び右に折れる廊下の先が、男子棟になっている。


 梅宮学園高等学校は、ほんの十数年前までは女子高だった。

 特に戦前から戦後にかけては、裕福な家庭の娘が集まる、それなりに名の通ったお嬢様学校だったらしい。

 だが、時代の波には逆らえず、現在では共学校に変わりはしたのだが、正確には“共学”ではなく“別学”校なのである。


 「……まあね、学校関係者――それも女子の協力が欲しいってのは分からなくもないんだけど」

 ただでさえ部外者や不審者に厳しい昨今の情勢に加え、男子が女子棟に、もしくは女子が男子棟に足を踏み入れれば、即座に生徒指導室送りとなるような学校を、彼一人で調べるには限界がある。

 けれど、この学校に通う女子の総生徒数は全学年合わせて270名居る。他にいくらでも選べるはずなのに、どうしてわざわざ真弓を選んだのか、その理由がさっぱり分からない。


 昇降口で上履きを靴に履き替え、正面玄関とは逆の、中庭へ出る扉を押し開ければ、冷房の効いた室内に、どっと熱気が押し寄せる。

 いくら暦の上では秋だと言ったところで、現実は未だ真夏のような暑さが続く。

 今日も空にはもくもくと立派に育った積乱雲が透けるような青空を押しのけ、元気すぎる太陽はこれでもかと熱射を浴びせてくる。

 ただ立っているだけでもじっとり汗が滲んでくる暑さの中、真弓は芝生を踏みしめ、一本の立派な梅の木が作る木陰まで歩き、ベンチに腰を下ろした。


 背もたれも、テーブルもない。

 二つの石の柱に板を渡しただけのそこには、思ったとおり先客は誰も居なかった。

 ――当然だ。

 この暑い中、わざわざ冷房の効いた涼しい室内を出て、熱風の吹く庭で食事をしたいと思う者など普通は居ない。


 だから、目に留まってしまったのだろう。


 「あら貴女、一人なの?」

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