本契約の、その先に
楸の主である雅葛葉は、葛の葉一族の妖狐。――血筋を辿れば、真弓の遥か遠い親戚とも言える彼女は、梓馬の元師匠なのだという。
「ところで葛葉、小豆が新しい任務を持ってきてるんだけど?」
手乗りサイズの小さな子狸抱えた楸が、彼が咥えていた依頼書を葛葉に差し出した。
「あら、ホント。しかも……あらヤダ、これ、伏見からのお仕事じゃない!」
「何だ、とうとう見合い話でも舞い込んだか?」
ペンを止め、ニヤリと笑った梓馬を、葛葉が容赦なくどついた。
「ンなワケないでしょ、私は楸一筋よ! ……そうじゃなくて、あのおサボリ狐のお仕置き任務よ!」
「おっと、それは僕としても張り切んなきゃね。柏様にはもうあと数十年は頑張ってもらわないといけないんだし」
「ふふふ、私、これでも由緒正しい神狐の血を引いているの。あの柏ちゃんと違ってきちんと修行も積んできたから、なろうと思えば今すぐにでもなれるんだけどね」
――本契約より、さらに踏み込んだ契約。……主と同じモノになる契約。
楸と葛葉は既にその契約を交わす約束をしているのだという。
いずれ、あのぐうたらな神様に代わり、あの社の祭神となって土地の守護を務める、その約束を――。
「でもそれは、もっとずっと先、僕が社を継いで、次の後継を作って……子に跡を継がせて……それからの話さ」
「そうね。今はまだ楸の恋人でいる方が楽しいし。その為にも、柏ちゃんにはしっかり活を入れなきゃね!」
葛葉は依頼を受ける旨を書類に記し、それを小豆に預ける。
「――ねえ、真弓ちゃん」
そして、そと真弓の耳元で囁いた。
「私たち妖狐もそうだけど、吸血鬼の寿命はとても長いの。不死ではないけれど、普通の人間に比べれば、遥かに長い、永遠とも言える時を生きる。……真弓ちゃんは、彼と同じ時を生きられる?」
しかしそれは、簡単に応えられる問いではなかった。
彼の協力者である事を辞め、彼と離れるのは嫌だと思った。
梓馬が吸血鬼であっても構わないから、傍に居たいと思った。
……けれどまださすがに、人であることをやめるまでの覚悟を決める事は、出来なかった。




