愉快な同僚たち
「まさか……隣町の駅前の、こんな普通のビルにそんなものがあったなんて……」
案内されたのは、パチンコ屋やコンビニが立ち並ぶ、どこにでもある駅前の風景に溶け込んだ、とあるビル。
――この辺りとしては少し珍しい6階建て、という特徴さえ除けば、本当にどこにでもあるなんの変哲もないビルだ。
それだって、周りが2階から4階建てのビルがメインの街で頭一つ分高い程度の違いで、特に派手な塗装がなされているわけでもなく、逆に今にも崩れそうなおんぼろビル、というわけでもない。
1階テナントにはドラッグストア、2階のテナントに個人医院を入れ、1階店舗と2階の医院へ上がる外階段との間のアプローチを入った突き当たりに、エレベーターが設置されている。
表からは目立たない場所に設置されたそれに乗り、梓馬に続いて最上階でエレベーターを降りれば、またそこはどこにでもありそうなオフィスビルで……。
彼は廊下の両脇にいくつも並ぶ、無骨な扉のうち、刑務課と書かれたプレートのついた扉を押し開けた。
「う、ふ、ふ、待ってたわよぅ、梓馬君!」
扉の向こうにはまず、「受付」と札の掛かったカウンターテーブルが置かれていた。
受付係であるらしい一人の女性が、ねっとりと甘ったるい声で、何か聞き捨てならない台詞を口にする。
「今日こそ私に会いに来てくれたのよねえ?」
細身なくせに、出るところはしっかり出た、美鈴や葛葉にも劣らない、けれど彼女たちとはまた方向性の違う、魅惑的な美女――看護師とかCAとか弁護士みたいな知的な職業が似合いそうな、そういう系の女性。
なのに、その魅力を自ら台無しにするように、くねくねとその体の凹凸を強調するように梓馬に擦り寄る。
「――そんな訳がないだろう、と、何度言えば分かる。……今度こそ、依頼されていたターゲットを確保した。報告書類の受付と、ターゲットの引き渡し手続きを頼む。それと……」
「あら……ら、その小娘……。ま、まさかっ、梓馬君!」
僅かに振り向き、真弓を指した梓馬に、彼女はこの世の終りのような顔をして叫んだ。
「そうなの、ようやく見つけてくれたのよ、本契約の協力者を」
そんな彼女に構わず、葛葉が真弓の両肩に手を置き、見せびらかすように前へ押し出した。
「そういうワケでな、関係書類の受付も一緒に宜しゅう頼んますわ」
「なっ……!」
驚愕の面持ちで、ふらりと眩暈を起こしかけた彼女は、
「……いいえ、単なる協力者ならまだ見込みは――」
ぶつぶつ小声で何事か呟きながら、机の上に数枚のA4用紙を並べた。
「おおきに。ほんなら自分ら、そいつに必要事項を記入してや。したら、後でわいが人事課に出しとくでの」
名前と住所、電話番号、所属チーム名、主の名と、いくつかの記入欄の並んだ用紙に、ペンを走らせる。
その、最後の問いの前で、真弓は一度ペンを止めた。
「にしても、やっぱわいの言うた通りやったやろ?」
棗が、真弓の隣で書類にベンを走らせる梓馬の頭上で得意げに胸を反らせた。
「運命っちゅうモンを甘く見たらあかんって、な」
「……それは、そうかも。まさか楸お兄ちゃんが、狩人の協力者だったなんて」




