告白
鼓膜が痛む程の大声で叫ぶ彼の声音は、震えていた。真っ赤に染まった彼の瞳が、やけに潤んで見える。
「でも……使わなかったら、私、今頃とっくに美鈴さんに殺されてたよ」
最初の一撃だけで、瀕死の重傷を負わされた。
他の飴玉で少しばかり能力の底上げを図ったところで、焼け石に水だったはずだ。
「だから、使った。……構わないと思ったから」
「構わないって、何が……・」
「あなたと本契約を交わして、この先ずっとあなたの協力者を続けるのも、……このまま消えるのも――」
この飴玉の効果が切れれば、仮死状態に陥る。
その仮死状態から脱する方法は、一つだけ。それをしなければ、遅かれ早かれいずれは本当に死ぬことになる。
その方法を、彼は決して教えてくれなかったけれど。
「……棗に、教えてもらった。本契約を交わす、その方法も」
「なっ……!」
絶句する梓馬の背後から、葛葉の鋭い声が飛んだ。
「梓馬!」
何を思ったか、葛葉と対峙していたはずの美鈴が、真弓に手を伸ばした。
戦況が不利と悟り、真弓を人質に取ろうというのか、猛スピードでこちらへ迫ってくる。
「取り込み中だ、邪魔するんじゃない!」
振り向きざま、梓馬が吠えた。
懐から素早く取り出した短剣を投げて、美鈴を地面に張り付けて動きを止め、叩きつけるように鏡を彼女の額に当てた。
「あ、あああ! 7年越しの獲物を持って行かれた!!」
たちまちのうちに鏡に吸い込まれる様を見て、葛葉が頭を抱えて地面に膝をついて叫ぶ。
彼女が悔しげに地団駄を踏んで嘆く様を綺麗に無視して、梓馬は真弓に向き直る。
怒りを堪えた、未だ赤いままの瞳をまっすぐ見上げ、真弓は簡潔に自分の思いを告げた。
「私は、あなたの事が好きだから」
「……っ、お前、自分が何を言っているのか分かっているのか? 俺は、吸血鬼なんだぞ?」
梓馬はしどろもどろになりながら、声を上擦らせる。
信じられない、何を馬鹿なことを言っているのかと、そう思っている事が丸分かりだ。
「……それが、何か?」
戸惑う彼に、真弓は冷静に切り込んでいく。
実在の男に告白するのは、生まれてこの方これが初めてであるが、ゲームの中でならありとあらゆるパターンの告白を成功させてきた。
「だって、あなたは私が必要だと言ってくれたじゃない」
――それでも、心臓は緊張で暴れまくっている。
「私はお父さんに嫌われてるから、家に居てもずっと一人だし、学校へ行けば和と、和の親衛隊の子たちが居て……。家へ帰っても、やっぱり和と、それに美鈴さんも居て……」
息苦しい世界の中で、真弓は固く目と耳を塞いで一人の世界に閉じこもり、固い殻で心を覆い、そうして全てをやり過ごしてきた。
「でも、あなたは私を選んで、私を必要だと言ってくれた。私一人だったら見る事の無かった世界を見せてくれた。……大して役に立てなかった私を、ちゃんと守ってくれた」
ほんのひと時でも、あの息苦しいばかりの暗い世界の外へ連れ出してくれた。
「私には、それで充分だったの。それだけで、他の事なんてどうでも良くなるくらいに。……吸血鬼だろうが何だろうが、そんな事、大した問題じゃない」




