チーム鬼灯
「……私、肉弾戦ってあんまり得意じゃないのよねぇ」
美鈴は面倒臭そうな顔をしながら、宙に浮かぶ真弓を睨み上げた。
「全く、つまんない女がこんなに私の邪魔ばかりするなんて……」
地面に落ちていた小石を拾い、美鈴はそれを真弓目掛けて投擲する。
ピンポン玉より小さな、何の変哲もないただの小石が、モデルガンから発射されたBB弾の如きスピードで飛んでくる。
吸血鬼とほぼ変わらないまでに引き上げられた動体視力はその軌道をはっきりとらえ、体はそれに俊敏に対応し、避ける。
……だが、既に何度も霧化を繰り返した真弓の息は、既に絶え絶えだ。――くらくらする。
(あれから、一体どのくらいの時間が経った?)
あれから太陽の位置が動いたようには思えない。――外界から隔てられたこの空間では、時間の経過が測れない。
真弓のタイムリミットは、2時間。……彼が駆けつける前に飴玉の効果が切れてしまえばジ・エンドだ。
(まだ……なの? それとも……本当はまだあれからそんなに時間は経っていない……とか?)
「真弓!」
その、待ち望んだ声が聞こえたのはその直後の事だった。
ぐにゃりと空間が歪み、青い炎に縁どられた輪の中から飛び出してきたのは――
「……楸……お兄ちゃん?」
――と、黒い大きな狼と、見覚えのない美女が一人。
「……誰?」
美鈴とも張れる程の美人だが、美鈴が夜の歓楽街が似合いそうな美女であるのに対し、こちらは長い黒髪が上品な和風美人と、その方向性は随分違う。
「うふふ、そう言えばこの姿でまゆたんと会うのは初めてね。私は雅葛葉。組織に所属する狩人で、梓馬の見習い時代の元師匠。ついでに……楸の主兼彼女だったりして♪」
「……は? 楸君が組織の狩人の協力者ですって? ……しかもあんたが『彼女』?」
たちまちのうちに美鈴の目が吊り上がる。
彼女の目が彼らに向いている間に、真弓は疲れ切った体を地面に下ろし、へたりとその場にしゃがみこんだ。
「楸お兄ちゃんの彼女は、美鈴さんのはずじゃ……?」
「――そう、装っていたんだよ。葛葉からお前の正体を予め聞かされていたから。だから、お前を見張りつつ、実家から遠ざけるつもりで付き合うフリをしていたんだけど……」
「で、楸が大学に行っている間は私が見張っている手はずだったんだけどね」
暗い顔で俯き、申し訳なさそうに彼女は言った。
「とにかく手口が巧妙で、なかなか尻尾を掴ませて貰えなくて。……結果的にこれだけ被害を拡大させてしまったのは私の失態だわ」
掌を差し出し、ぽうっといくつも青い炎を生み出し、宙に浮かべる。
「でも、こうして現場を押さえたからにはもう、容赦しないわ。今日こそ捕まえてあげるから、覚悟なさい!」
張り切る彼女の横をするりと大きな狼がすり抜け、つかつかと真弓の方へ歩み寄る。
その過程で、狼姿がふっと溶け、人の姿に変わる。
「お前……何故あれを使った!」
梓馬は、地面にへたりこんだ真弓に詰め寄った。
「あの飴玉を使ったらどうなるか、俺は説明したはずだ!」
どの飴玉も、効果が切れた後には副作用が現れる。飴玉の効果が大きいほど、副作用もまた大きく、重いものになる。
吸血鬼と同等の能力を使えるようになるこの飴玉の、副作用は――
「……死にたいのか、お前は!」




