『夢路の導き』
――桜町駅。
東京都心から首都圏郊外の丘陵地帯を抜けていく私鉄の駅の一つであるその駅前には、食料品や衣料品の専門店が入ったショッピングセンターや、チェーンの牛丼屋やコンビニ、ファストフード店が多く立ち並ぶ商店街、スーパーにファミレス、市役所の出張所などが建ち並び、そこそこの賑わいを見せている。
「――俺に、協力者など必要ない。そう常々言っているのを、お前は知っていたはずだがな」
駅の売店で、新聞の夕刊紙を買い求め、ホームで列車を待つ人の列の最後尾に並びながら、彼はぼそりと呟いた。
新聞記事の一面は、各紙揃って連日、つい先日実現したばかりの政権交代のニュースを報じ、特にここ数日は新首相の特集に注目が集まっている。
「けど、じゃあ主はどないするつもりなんや、今回の事件の調査を――。女子校侵入で警察に捕まって、組織に手間かけさして始末書書かされるやなんて、わい、嫌やで」
5時を過ぎた駅――向いの下り列車を待つ列は長く、また次々にやって来る列車の乗車率もかなり高いが、上り列車は比較的空いている。座れはしないが、新聞を読むのに困らないスペースは余裕で確保できる。
ひと駅過ぎ、ふた駅目の駅名がアナウンスで告げられたところで、梓馬は新聞を畳んで、列車を降りた。
ここの駅前も、その様子は先ほどの駅前と大差ない。――違う点を挙げれば、こちら側の出口にはロータリーが無い事くらいか。
その分、あちらより少々ごちゃついた感じのする駅前通りに並ぶのは、ハンバーガーチェーンやカフェチェーン、パチンコ、ドラッグストア、コンビニ等。
それらが雑然と立ち並ぶ狭い通りが、線路と平行する形で、線路と交差する大通りにぶつかる交差点まで続いている。
その、一角。郊外にあるビルとしては比較的高い建物こそが、梓馬の所属する組織、『夢路の導き』の支部の一つなのである。
支部は、今や全国至る所に存在する。東京や大阪の繁華街、北海道の北の果て、沖縄や小笠原の離島にもそれは存在する。
ちなみに本部があるのは、古都、京都である。
元は人間たちが作り上げた天皇を長とする朝廷という名の政を行う機関を定め、国の統治を始めた頃、そんな人間たちを妖たちが面白半分に真似て作ったお遊びの集団でしかなかった――が、やがて陰陽寮なる妖祓いの専門家の集団が現れ、更には安倍清明やら蘆屋道満やらといった化物級の輩が登場するに至り、組織は次第に力の弱い妖たちが互いに庇護し合うべく集う機関へと変わっていった。
妖が人を襲い、その妖を人が退治する、という構図の中で、人間たちと程良い距離を保つための雑務を担う組織。
――それが、組織『夢路の導き』だ。
梓馬は、エレベーターに乗り、5階の階数ボタンを押した。
やがて、チン、と小さな音と共に、扉が開く。
「いらっしゃいませ」
ほぼ同時に、レジカウンターに立っていた女性の声が響いた。