牽制
「これは……。僕としてはなかなかに複雑な展開だなあ」
押し返された箱を手に、楸は笑顔のまま梓馬を睨み据え、その背を追おうとしたのをその場に押し留めた。
「今は、追わない方が良いと思うよ。どうも君は、鈍いみたいだから」
「……わいも、この兄さんの意見に賛成や。あぁぁ、我が主人ながらホンマ情けない!」
悔しげに前足でぽかぽか頭を叩かれる。……大して痛くはないが、大変煩わしい事この上ない。
梓馬は顔をしかめ、楸を睨み下ろした。
「僕は、彼女の幼馴染みだけど。……彼女は、幼い頃からよくうちに預けられていてね。僕にとっては妹も同然の子なんだよ」
しかし楸は、弟の和のようにその視線に怯む事なく、それどころか微笑みながらしっかり受け止め、きっちり切り返してくる。
「――大事な妹を、今の君に預けてはおけない」
「……言ったはずだぞ。何を勘違いしているか知らないが、俺と彼女はそういう関係ではないと。あくまで一時的な仮の関係だ」
「うん、だからさ。僕も言ったはずだよ。君がそういうスタンスで居るなら、もう彼女には近づかないでくれ。このまま、そっとしておいてあげてくれないかな?」
――何故だろう。無性にイライラする。
「そうはいかない。……今、狙われている可能性が高い彼女を、放っておくわけにはいかないからな」
「なら、彼女は僕が責任を持って守ろう。だから、君はもうお役御免だ」
その台詞にいっそう表情を険しくした梓馬に、楸が微笑みかける。
「それとも何か、どうしても君でなくてはならない理由でもあるのかな?」
「……さあな。別に、どうしても俺でなくてはならない理由は無いな。だが、少なくともお前には任せておけない」
「そうかな? でも、僕は君を知っている。……今の君に、彼女は守れないよ」
「……お前、何者だ?」
梓馬は、再びその問いを口にした。
「彼女から聞いただろう? この神社の跡取り息子さ」
その問いに彼はそう答えて、踵を返した。
「――待て」
呼び止める梓馬の声は緊張に尖っていた。
「……悪いけど、僕も今日は忙しくてね。これ以上君に構っている暇は無いんだよ。僕はもう、本部に戻って仕事をしなくちゃならない。それとも、君も来るかい、仕事の手伝いに……?」
足を止めずに振り返る彼の顔は、それでも人の良さそうな笑みを浮かべたままだ。
その余裕そうな笑が、何故か癪に障り、梓馬はむっつりと答えた。
「――行く」




