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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第4章 一線
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すれ違い

 「……楸お兄ちゃん?」

 背後から聞こえた声に、真弓はぎこちなく振り返る。

 

 「母さんから、珍しく君が祭りに顔を出してるって聞いたから。つい、休憩を貰って出てきちゃったよ」

 神社の境内に設置された本部テントへ代わる代わる顔を出す、街の顔なじみへの挨拶に追われていたはずの彼は、そう言ってへらりと平和な笑みを浮かべた。

 「母さんが妙に勿体付けるから、何かと思ったけど……。成る程、こういう事か。それ、すごく可愛い。君によく似合っているよ」


 「……主。是非この兄さんの爪の垢貰うて、煎じて、今すぐ飲むべきやと、わいはそう思うんやけどなぁ?」

 それを聞いた棗が、ちくりと梓馬の耳に皮肉を吹き込んだ。

 「それと、もう一つ……君に用があって、探していたんだ」


 楸は、身に着けた白の上衣と薄青の袴の衣装の懐をごそごそ探り、やがて綺麗な包装が施された細長い箱を真弓に差し出した。

 「これを、真弓ちゃんに。うかうかしていると、うっかり渡し忘れそうだから、今のうちに」

 にこにこ笑いながら、それを真弓の手に握らせようとする。

 「……これは?」

 「うん、岡崎さんに島田さん、小野寺さんたちの連名で、ね、頼まれていたんだよ。彼らから聞いたよ、最近流れていた噂を気にしてくれてたんだってね。君にお礼をしたいけど、女の子の喜びそうな物なんて分からないから、代わりに選んで渡してくれって、お金を預かって……」

 兄弟なだけ、和とも似通った顔のはずだが、和が浮かべる事のない、父親によく似た邪気のない、人の良さそうなその笑みに、真弓はずっと憧れていたはずだった。


 「中身はペンダントなんだけど、受け取ってくれるかな?」


 ――でも。


 「……ごめんなさい、私には受け取れない」

 真弓は差し出されたそれを押し返し、項垂れた。

 「私はただ、手伝っただけなの。本当にお礼を受け取るべきなのは――」

 ちらりと、隣の梓馬の顔を見上げる。


 今、彼の前で楸から装飾品を貰う、という状況がどうしても嫌だった。


 だが、梓馬はその視線に顔をしかめた。

 「いいじゃないか、貰っておけば。……ペンダントなんぞ俺が受け取っても仕方ないんだ。開けて、着けてみればいい」

 その頭上で、棗が「うおあぁぁぁ、主ぃぃぃl!」と、小さな前足で頭を抱えて仰け反り、大げさに嘆く素振りを見せたが、それさえ目に入らない程の衝撃を心に受けた真弓は、思わず手に握らされた箱をそのまま握りつぶしてしまいそうになった。

 ぎりぎり、直前で気付いて事なきを得たそれを、真弓は今度こそ、強引な程無理矢理楸に押し返した。

 

 「……ごめんなさい。やっぱり、私にこれは受け取れない」


 そして梓馬を振り仰ぎ、真弓は無理矢理笑顔を作る。

 「じゃあ、今日はこれで。一通り屋台を見て回ったけど、結局何も無かったもんね」

 震えそうになる声を必死で抑え、まともに喋れたのは、そこまでだった。

 真弓は彼から顔を背け、そそくさと早足に歩き出す。


 「おい、待――」

 背後から声がかかるが、元々覚束無い足元で、支えを失くした状態で早足など、真弓にとっては無謀な行為以外の何ものでもない。


 数歩も歩かぬうちに、案の定、ズデンと派手にすっ転ぶ。

 ぷっ、と吹き出し、クスクス笑い転げる由紀たち一行の嘲笑を背に受けながら、真弓は立ち上がり、擦りむいた掌から滲んだ血にも構わず、拳を固く握り締め、再び歩き出した。

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