真弓の悩み
「――何者なんだ……?」
あれから、事あるごとに尋ねられる問い。
「楸お兄ちゃんが何者か、なんて聞かれたって……」
真弓は思わずため息を吐いた。
「和のお兄さんで――だから当然彼と同じ、壱月おじさんと郁子おばさんの息子で――。稲葉家の長男で、この柏神社の後継で、次期神主で。だから、神職の資格を取るための学校に通う、大学生で……」
一応、これでも幼馴染みだ。彼の好みや趣味などといった情報ならそれなりに詳しいが、どうやら梓馬が求めている情報はそういうものではないらしい。
「……だから、何度聞かれても、これ以上の事は答えられないよ」
(……それに。それよりも――本当、どうしよう?)
ここ連日、自室のベッドの上に、珍しくありったけの洋服をぶちまけ、真弓は悩んでいた。
誰の答えも返らないと知りつつ、つい小さく呟きながら。
「突然浴衣なんて着て張り切ったら……引かれる、かなぁ」
何より、真弓の運動神経では、裾を踏んづけてすっ転ぶ、という失態を犯さずにいられる自信がないというのも、躊躇う理由の一つだ。
もし彼の予想が当たって、祭りにかの“黒幕”が現れたら、当然捕り物になるだろう。
そう考えれば……
「動きやすい格好の方がいいか……。でも、だからってジーンズとTシャツってのも……」
動きやすいのは間違いないが、さすがにそれはないだろう。
しかし、真弓の部屋の洋服ダンスに「可愛い外出着」というジャンルの服は存在しなかった。
「……新しい服、買いに行こうかなぁ」
けれど、突然そんな行動に出るのもまた、変に意識しているように見えるのではないだろうか?
――などと、悶々と堂々巡りを続けていた真弓が突然郁子に呼びつけられたのは、祭りの当日、土曜日の早朝の事だった。
「――これなんだけどね」
彼女がにこにこと嬉しそうに出してきたのは、真っ赤な布地に白や桃色の花が咲き、所々金銀の刺繍のアクセントが散らされた浴衣と、揃いの帯から下駄から簪から、全てひと揃いになった一式。
「この間の子と、お祭りを回るんでしょ? これを着ていくといいわ」
「え……、でも……」
「好きなんでしょう、彼のこと」
郁子は母親らしいふわりとした笑みを浮かべ、確信に満ちた問を投げかけた。
「だったら、こんな日くらいはばっちり着飾らなきゃ」
彼女はほぼ問答無用で真弓の衣服を引っペがし、着々と着付けを進めていく。
「……この間ね、小野寺さんからお礼を言われたわ。そう、島田さんからもね」
黒髪を櫛で梳き、簪を留める。
「ずっと、気にかけてくれていたのね。島田さんの息子さんも、小野寺さんのお父さんも、少しずつだけど、状況が良くなっているそうよ」
化粧道具を入れた箱を開け、じっと真弓の箱を見据えながら、郁子は言った。
「だから、これはそのお礼」
ファンデーション、チーク、マスカラ、口紅――。
控えめながら、郁子は真剣に化粧を盛っていく。
普段、化粧っ気のない真弓を大きな姿見の前に立たせ、郁子はその出来栄えにうんうん頷きながら、その背を叩いた。
「さあ、行ってらっしゃい」




