憧れのお兄ちゃん
「……あなたも、楸お兄ちゃんに会いに来たの?」
その場にしゃがみこみ、喉元を撫でてやれば、ゴロゴロと喉を鳴らす。
「……そうだよね、お兄ちゃん、優しいもんね」
そう、そう言えばこの猫も、彼が居る時にしか姿を見せないのだ。
5つも年上だった彼は、いつも意地悪をしてくる和を諌め、真弓を庇ってくれる唯一の人だった。
幼かった真弓にとって、そんな彼は憧れのお兄さんで、淡く幼い恋心を抱くには十分な相手だった。
けれど、その恋心が本当の初恋に育つより前に、彼に彼女ができたため、真弓の気持ちは憧れ以上に育つ事はなかった。
それでも、好きだと思える男性のタイプに大いに影響を与えたのは確かだろう。
ゲームの攻略キャラの選択においても、真っ先に選ぶのは、彼のような優しいお兄さんタイプ。
……決して、“彼”のようなタイプの男性ではなかったはずなのに。
「おい、何をしている?」
背後から突然声をかけられ、真弓は思わず飛び上がった。
「びっ、びっくりさせないで! ……あ、あれ? ミヤビ?」
猫も、驚いたのだろうか。再び見下ろした地面にその姿はなく――
「あの楸という男……」
がっかり肩を落とす真弓に梓馬が尋ねた。
「あいつは、何者だ――?」
「――君は……」
真弓と共に一度母屋に消えたその男は、真弓を置いて一人で拝殿へやって来て、所在なく佇んでいた梓馬に気付き、声を掛けてきた。
頭の先からつま先まで、梓馬の全身を遠慮なく眺め回した後で、彼は品定めするような目をこちらへ向けた。
「さっき、真弓ちゃんと一緒に居るのを見たけど、もしかして彼氏……なのかな?」
――やはり、このくらいの年齢の男女が二人きりで居れば、どうしてもそういう風に見えてしまうものなのだろうか?
彼女と行動を共にするようになってから、もう何度目か分からないその問いに、梓馬は常の答えを返そうと口を開いた。
「いや、違――」
「……違う、と言うならさ、君、もう彼女から手を引いてくれないかな?」
顔立ちは、確実に父親似だと思われた。
一応、男らしい骨っぽさはあるものの、手足は細く華奢で、柔道や剣道よりも囲碁や将棋の方が似合いそうな風体だ。
「一時の関係で終わらせるつもりなら、さっさと彼女を手放せ」
だが、その柔和な表情を消し、鋭くこちらを睨めつけた彼から、何故か妙な迫力を感じ、梓馬は思わず一歩後ずさった。
――ただの人間を相手に、吸血鬼であり、組織でも有数の実力を誇る梓馬が、だ。
「あいつは、一体……」




