幼馴染みの彼女
こりゃあ一本取られた、と、額を叩いて再び笑い合う大人たちに肩をすくめ、楸は再び外へと出て行く。
「真弓ちゃーん、お茶を淹れたから、持って行ってくれるかしら?」
「あ、はーい!」
郁子に呼ばれ、彼の後を追おうとしていた真弓は彼を見送り、奥へ行こうとした――その時、玄関のチャイムが鳴った。
「ごめーん、真弓ちゃん、出てくれる?」
このタイミングだ。おそらく話し合いに遅れてきた誰かだろう、そう思って真弓は引き戸を開けた。
「あら、貴女、居たの?」
――噂をすれば影、とは本当に――実によく言ったものだと真弓は思う。
玄関先に立っていたのは、楸の彼女、蘭川美鈴だった。
「……今日は、土曜日ですから」
「それで、楸君は? 帰って来てるって聞いたんだけど?」
「……はい、さっき。今は、拝殿の方に居ると思いますよ」
「そう? ああ、そういえば貴女、来週はどうするの?」
「……え?」
その問いが、祭りに関するものである事は察せられたが、何故彼女がそんな事を気にするのだろう?
「確か去年は来なかったのよねぇ? ……お陰で優しい楸君は貴女の事ばかり心配して――そう、そういえば一昨年も……」
そんな疑問を抱いた真弓は、それをそのまま読まれたように、美鈴にあてつけがましく詰られ、じろりと睨まれた。
「それでね? 私のお友達にお祭りの事を話したら、是非来たいと言っていてね。良かったら貴女、一緒にどうかしら? 夜まできっちり面倒見てくれるように頼んでおくから」
意地の悪い笑みを浮かべる美鈴の提案に乗って良い事などあったためしがない。
しかも、この彼女の言い様。――“夜まで”だなどと、何を企んでいるのだろう?
「……すいません。あの、その日は先約があって」
それを断る口実がある事、そしてその約束をくれた彼に感謝しつつ、真弓は恐る恐る言った。
「先約? 貴女に?」
「……はい、あの、ごめんなさい。ある人と一緒に行くって約束してしまったので」
とは言え、こんな事で丸く収まるとはとても思えない。
これから浴びせられるだろう悪口雑言に耐えるため、息を詰めた真弓だったが、幸いにも彼女が口を開く前に、その背後から声が掛かった。
「あれ? 美鈴、来ていたのか?」
目と鼻の先の場所での簡単な参拝に、そういえばそう時間がかかるはずもない。
戻ってきた楸の姿に真弓はホッと息を吐き出した。
だが、彼が現れた以上、早々に退散するのが上策というもの。長居をすれば、彼女の射るような視線はますますその鋭さと冷たさを増していくだろう。
「ところで真弓ちゃん、あの彼は――」
楸が何か言いかけたのを遮るように、
「……あの! 私、そういえば仕事がまだ途中だったから!」
わざとらしい程の大声で叫び、表へ飛び出した。
駐車場に停められた車の影に隠れるようにして、彼らの視線から逃れる。
「――なぁ」
と、足元で猫の鳴き声が聞こえた。
「にゃぁ」
全身真っ白い、綺麗な猫だ。たまに社に姿を見せる野良猫だが、その毛並みの美しさは、そこらの飼い猫よりずっと上品で、艶があった。
「……ミヤビ」




