もう一人の幼馴染み
「……は?」
「――だから。俺と祭りを見て回れと言っている」
まるで、デートの誘いのような彼の言葉に、真弓は目を丸くした。
「人の大勢集まる行事を、人の精神を餌にする奴が見逃すとは思えない」
「……あ、ああ、そういう事ね。うん、そうだよね。……でも、それってつまり、何か仕掛けてくるかもしれないって事?」
尋ねた真弓に梓馬が頷く。
「まだ、分からないがな。用心に越したことはない」
ホッとしたような、がっかりしたような……。
――そして、翌日。
複雑な思いを抱えながら、真弓は日に日に増える落ち葉をかき集める。
この一週間は、特にこれといった事件もなく、久しぶりに平穏な日常が過ぎたように思う。
だからこそ、この平穏が嵐の前の静けさにも思えてしまう。
――と。
通りから路地へ曲がり、そのまま神社の駐車場に入ってくる車が、一台。
その運転席に座る人物に気づいた真弓の顔が、自然と緩んだ。
「楸お兄ちゃん!」
「やあ、真弓ちゃん。久しぶりだね」
車のエンジンを切り、荷物を抱えて降りてきた彼は、フェンス越しに手を振った。
「……あれは?」
初めて見る顔に、梓馬が尋ねた。
「彼が、楸お兄ちゃん。……和の、お兄さん」
「あのガキの……?」
和の兄と聞いて、梓馬が渋い顔をするのは無理もない。
「うん。……でも、楸お兄ちゃんは大丈夫。和とは違うから」
真弓は、母屋へ向かう楸を追った。
「高校生活はどう? もう慣れたかい?」
「……うん、まあ、それなりに」
正直なところを言えば、馴染んだとは言い難い。――が、それでも中学までの状況を思えば、随分とマシになった。
「ただいま」
楸がからりと母屋の表の引き戸を開けると、すぐに郁子の声が飛んできた。
「お帰りなさい、楸、ご飯は?」
「途中で済ませてきたよ」
「そう? お参りはもう済ませた?」
「いや、まだ。荷物を部屋に置いたら、行ってくるよ」
親子の会話を隣で聞いていた真弓は、あのぐうたら狐の有様を思い浮かべ、笑顔を引きつらせた。
「じゃあ、お茶を淹れるわ。ちょうど皆さんもご飯が終わったところだから、お参りだけ済ませたら、ご挨拶するのよ」
奥の台所から顔だけのぞかせた郁子の声につられるように、食堂からいくつか顔が突き出された。
「おお、楸君か! ほう、大きくなったな!」
「……って、去年も会ったでしょう? この歳になったらもう、背なんか伸びませんって」
「いやぁ、縦には伸びんでも、横へは幾つになっても大きくなれるのよ、なぁ?」
一人がそう言って、メタボ気味の腹を叩くと、どっと笑い声が上がる。
しかし彼はそれを、父親譲りの人好きのする笑みを浮かべて見事にかわした。
「だとしても、このとおり僕はまだ若いですし、日々忙しくしていますから、多分当分はそういう心配は無いと思いますよ。それに……」
そして、ちくりと控えめに反撃することも忘れない。
「そんな事になったら、彼女に幻滅されてしまいますから」




