現実と虚構の境界線
(……期待する、なんて。そんな事言われたの、いつ以来だろう?)
ゲーム機のコントローラーを握り締めながら、真弓は一人呟いた。
テレビ画面に映る、爽やかお兄さん系の男のイラストを眺めながら、下部のウィンドウに流れる文字を眺める。
『どうして、そんな不安そうな顔をしているの? 君は、とても可愛いのに』
現実世界の男どもがまず口にしないだろう甘い台詞を、大盤振る舞いしてくれる、画面の向こうの王子様。
外の世界で、傷つき疲れた心を癒す、真弓にとっては無くてはならないものだ。
――現実世界で真弓に投げかけられる言葉の大半が、例えば和だったり、彼の親衛隊の子たちから浴びせられる、刺だらけで毒にまみれたものだったから。
……どんなに気にしないようにしていても、やはり心の澱は少しずつ降り積もって、やがて重石と成り果てる。
外部ときっぱり接触を絶った暗い部屋の中で、作り物の王子様の優しい言葉を求め続けていた。
けれど、梓馬と出会ってからこっち、用意された彼らの言葉のどれもが、以前のようには心に響いてこなくなった。
これまでだって、本当に楽しいと思ってゲームをしていた訳ではない。
以前にも、学園モノなど現実を舞台にしたゲームに対し、つい“こんなの現実ではありえない”と冷めた気持ちを抱くようになった事があった。
以降、真弓はファンタジー系のゲームにしか手をつけなくなった。
……はなから現実的でない設定のゲームなら、割り切って遊べるから。
だが、ここ一連の出来事で、真弓の現実が、虚構の世界との一線に触れてしまった。
――何より。
真弓の心が、その一線を踏み越えてしまった。
「……そういえばこの間、秋祭りがあるとか言っていたな?」
学校帰り、いつもの坂道を彼と並んで歩く。
「うん、来週の週末、三連休を使って3日間ね。神社の敷地は狭いけど、ここの通り沿いにズラッと出店が並んで、交通規制かけてここ一帯が歩行者天国になるから、それなりに人も集まるんだよね、毎年」
児童公園を過ぎ、自宅と、その先の柏神社が見えてくる頃。
「それで、お前は?」
梓馬からそう問われた。
「え?」
「お前は神社のアルバイトなんだろう? 仕事があるのか?」
「お祭りの間は、毎年来てくれるお手伝いの人が居るし、楸お兄ちゃんも帰ってくるから、私はお休み。……去年も一昨年もその前も、家に居てお祭りには参加しなかったし」
そう答えた真弓に、
「ならば今年は、俺と来い」
と、梓馬は事も無げにそうのたまった。




