真犯人の思惑
「昨夜ひと晩、じっくり取り調べた結果だが」
翌朝、日が出るより早い時間に再び組織に顔を出した梓馬に、翔が渋い顔で頭を掻いた。
「奴は、おそらく使い魔だ」
「……奴、というのは夢魔の方か?」
「そうだ。あのお子様の方はどうやら知らぬ間に夢魔を憑けられたらしいな。直接契約を交わすどころか、憑かれたことにすら気づいていなかったらしい」
どさりとソファに腰を下ろし、自分で自分の肩を揉みつつ、ペットボトル入りの緑茶を煽る。
「そんな訳だから、取り敢えず記憶操作だけしたら、そいつは釈放だ。……問題は、夢魔の方だ」
ソファの背もたれに両腕を預け、足を組んで投げ出し、その身に纏った袈裟が滂沱と涙しそうな格好でため息を吐いた。
「梅の木の精霊に、今回の夢魔。……どうにも遊ばれているようで気分が悪いな」
「――夢魔、か」
梓馬の声が一段と低くなる。
「ああ。……おそらく外からの“お客さん”だろうな。そいつを使役してるんだ。まだ見ぬ本命殿も――」
「外来種、か」
「だろうな。っつーワケで、だ。このお子様はこっちできっちり処理してちゃんと送り返しておくからよ、お前は引き続き黒幕の捜査、頑張れよ」
中身が空になった鏡を投げ渡しながら、翔はわざとらしく意地の悪い笑みを浮かべた。
「……それで。何か手がかりになりそうな情報は引き出せたか?」
「いや、さすがに昨日の今日――っつうかこの数時間じゃそこまではなぁ……。だが、まあ、今後何か分かり次第こいつを飛ばすからよ」
翔が相方の烏を親指を立てて指し示す。
「ああ、頼んだぞ」
刑務課の扉を閉じると、それまでパーカーのフードの中で大人しくしていた棗が、梓馬の肩に乗り、尋ねた。
「……それで、どうするんや、主?」
もう、長い付き合いだ。それが、これからの捜査方針を尋ねているのではなく、真弓との契約に関しての事を言っているのだとすぐに分かった。
「なあ、棗。この事件の黒幕とやらは、何がしたいんだろうな?」
ようやく東の空がうっすら明るくなってきた夜明けの街を歩きながら、梓馬は逆に棗に問を返す。
「前回と今回の事件で、どちらも彼女が狙われたのは、あいつの歪んだ想いのせいだが……。あの夢魔の主は、何故こいつを選んであの夢魔を憑けたんだ?」
『……うん。……それは、知ってた。ずっと、怖かったから』
「――あいつの望みを知った上で、奴に夢魔を憑けたんだとしたら……?」
「――じゃあ、まだ他に黒幕が居て、しかもその狙いが私かも知れないって事?」
翌朝早くに訪ねてきた梓馬に事情を聞かされた真弓は、思わず声を震わせた。
「まだ、可能性の段階だ。何が目的か、そいつの思惑なんぞ知らんが……」
「でも! それなら、これまでの事件って、やっぱり私のせい……で……?」




