渇き
――体が、妙に熱くてたまらない。
喉の渇きを覚えた梓馬は、キッチンの冷蔵庫を開けた。
常にストックしてある輸血用の血液パックの口を切り、吸い付く。
その味は、紙パック入りの新鮮血液とは比べ物にならない程酷いが、喉の渇きを癒すだけなら、これで充分足りるはず。
――本来、10日に1度で充分足りるはずの吸血を、梓馬はついさっき、組織で済ませていたはずなのに、今こんなにも血を求めて渇く、その理由は……。
「……こんなにも俺は、彼女の血を求めているのか――?」
彼女の首筋に、牙を立てたい。
本能に基づく欲求が、容赦なく理性を蝕んでいく。
しかし、本人の同意なく彼女の肌に牙を穿てば、組織の規定に触れ、梓馬は最悪、組織の同僚たちの手により死罪とされるだろう。
でも、彼女の同意さえ得られれば――
「……っ、ふざけるなっ!」
梓馬は壁を殴り、声を荒らげた。
「……人間は、守るべき存在だ。ましてや彼女は女、それもまだ子どもなんだぞ」
脳裏に蘇る、あの時の――あの、血の赤に染まった凄惨な光景。
彼女は気にしないと笑ったけれど。
いとも容易く奪われた、細くか弱い肉体の一部。その傷から滴り落ちた血だまりの中に横たわったあの瞬間。……痛かったはずだ。辛く、苦しかったに違いない。
「これは、一夜の夢だ。――忘れろ」
光の中で生きる者が触れる事の無い、闇の世界。
「……忘れる必要は、無いと思うんやけどなぁ」
棗が、大好物のレーズンを齧りながら言った。
「女の子は守るべき存在、ってのは同感や。あのガキみたく、女の子の意思を無視して、力でどうこうしようなんてのは最悪や。……けどなぁ、あの嬢ちゃん、多分芯はそんな弱ぁないと思うで」
本当に弱いなら、梓馬が自分の正体を明かした時点でとっくに逃げ出しているだろうし、色々恐ろしい目に合った七不思議事件の後で、なおも梓馬との契約を続行しようなどとは考えるはずがない。
「離れたくないと思うんやったらな、ちゃんと捕まえとかんと、後で後悔するで」
「……余計な世話だ」
そう反論を呟いた梓馬の言葉は、以前のようなキレは無く――酷く、苦しげだった。




