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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第3章 仮契約
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稲葉和

 ――つまり、それは。

 「なら、私もありがたくお言葉に甘えさせていただきます」

 稲葉家の人間と、街の主要な人物が一堂に会する場面に同席できるという事。調査が目的なのだから、これは願ってもない機会である。

 彼も、そう思ったのだろう。馬鹿丁寧な礼をしながら答えた。


 「あらまあ、今時の子にしては随分と礼儀正しい子ね。そういえば品もあって育ちも良さそうな……」

 郁子は感心したように梓馬を注視するが――

 「……そういえば、貴方って本当は何歳いくつなの?」

 ふと気になって小声で尋ねてみれば、彼は不思議そうに首を傾げながらも、事も無げに答えた。

 「俺か? 俺は今年で58になるが……。それが、どうかしたか?」


 何百、何千という数字を予想していた真弓は、その微妙な数字につい顔をしかめた。

 確か、この郁子や壱月、そして真弓の父であるまさきが、今年で46歳だったはずだ。

 見た目はほんの少し年上であるくらいのくせに、父より一回り上、という事実は、真弓を少々複雑な気分にさせた。


 ――けれど。

 そんな、どうでもいい事でも考えていなければ、この後の展開に、胃が耐え切れなくなる。



 ――果たして。


 「……誰、そいつ」

 案の定、なぎは不機嫌そうに呟いた。


 「俺の名は、桐生梓馬。彼女の知人だ」

 16畳と、一般家庭としてはかなり広い稲葉家の食堂は、畳敷きの和室で、座卓の前に座布団がずらりと並ぶ。

 いくつも並んだ座布団も、今日はその大半な埋まっている。


 「は? こいつに知人?」

 梓馬の回答に納得のいっていない顔で眉を跳ね上げた彼は、自分の食事が一段落した後で、まだ食事中の真弓を呼びつけた。

 「――ちょっと来い」

 

 自分たちの息子が、真弓に行っている所業を知らない彼の両親は、集まった関係者との打ち合わせに忙しい。

 その目を盗むように強引に真弓の腕を掴んだ和は、力任せに引っ張って、廊下へと連れ出した。

 「おい、あいつは誰だ?」

 ガン、と真弓の耳元の壁に力いっぱい拳を叩きつけ、脅すように尋ねる。

 「お前の好みからは随分とかけ離れた男に見えるけど、最近、お前があいつと居るところを見たって奴が何人も居るんだ」

 掴まれた腕がぎりぎりと締め上げられ、思わず痛みに顔をしかめても、彼は一向に力を弱めてくれないどころか、ますます力が込められていく。


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