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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第3章 仮契約
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共通項

 正方形を二つ重ねて八角形を描いた組合角の中央に、陰陽を表す巴が配された紋を、二本の矢が交差して貫く。

 その図柄を見せられた柏は、一気に顔色を青ざめさせた。


 「げえっ、お前さん、組織ギルド狩人ハンターか!」

 その彼の反応から、やはりあの紋は梓馬の身分をあかす物であるらしいと真弓は察する。

 「……そういう反応をするって事は、当然知っているな? 為すべき事を為していない、もしくはそれに値する能力を持たずにその役職に就いたと判明した暁にはどうなるか」


 手帳をポケットにしまい、代わりにやはり見覚えのある鏡を取り出して、その鼻先に突きつける。

 「わ、わしはこの土地の豊穣を司り、守る――そういう約束で、遠路遥々伏見から逃げ……げふん、出向して参ったのじゃぞ! その仕事はきちんと全うしておる!」

 「けど、今はこの土地の氏神も兼ねとるんやろ? ほれ、そこの社務所には交通安全やら安産祈願やらの札やお守り、ぎょうさん売っとるやないか」

 「初穂料を納めた者の守護は? 賽銭を払って願掛けした者の願いは? 余程守護を与え願いを聞き届けるに相応しくない心卑しい者でない限り、当然仕事は全うしているのだろう?」

 棗と梓馬の追求に、柏はそろそろと視線をあさっての方へ投げやった。


 「……してないんだな」

 「みっ、見逃してくれ!」

 慌てて揉み手すり手でペコペコし始める“神様”を見た真弓は、ため息を吐いた。


 「悪いが、中途半端な仕事をするのが一番嫌いなんだよ、俺は。――棗」

 「おう、次の定期報告の時についでに報告上げとくわ」

 おいおい泣すがる柏をまるっと無視して、梓馬もため息を吐いた。


 「……だが、このぐうたら狐にあんな手の込んだ面倒くさいはかりごとを企もうなどという気概があるとは到底思えん。取り敢えず、こいつが黒幕、という線は消えたな」

 「けど、その分この隙だらけの怠け狐の前なら、なんぼでも悪さ出来るやろうからなぁ……」

 これ以上、柏から引き出せそうな有力な情報は無さそうだと判断した3人は、振り出しに戻り、他の手がかりを求めて頭をひねる。


 「これまで確認できた被害者は、昨日の定食屋の息子さんと、寿司屋の先代の他に、農家のお爺さんと、交通安全のお守りを買いに来た男子大学生の4人……」

 「……今回の事件の被害者って、皆男なんやな?」

 「それが偶然なのか、それとも意図的なのか……。しかし七不思議事件と関連付けて考えれば、同じ街で起きているという事と、もう一つ共通点があるな」

 「うぅん、けどさすがにそれは乱暴なんとちゃう? 確かに、どっちも嬢ちゃんに縁のある場所で起きとるけど、こっちはともかく、学校の事件はなぁ……」

 その指摘に、真弓は表情を凍らせた。


 「もちろん、偶然の可能性の方が圧倒的に高いだろう。……だが、意外に顔が広いようだからな、街の様子を探る取っかかりとしても丁度いい。まずはお前の周囲を洗ってみよう」


 「……本当に顔が広いのは、私じゃないよ」

 カラカラになった喉から、無理矢理声を絞り出す。

 「祀られた神様はあんなんでも、一応ここはこの街に古くからある豊穣や商売繁盛を司る神社で、昔から農家や商家が多かった土地柄、お祭りの時なんかは、商工会の人とか農家の人とか、色んな人が集まるの」


 こぢんまりとした拝殿に比べ、神社の裏手にある柏神社の神職である稲葉家の自宅は、個人宅としてはかなり広い。

 「ここの神主の壱月いつきおじさんと、その奥さんの郁子いくこおばさんは、私のお父さんの幼馴染みで、家も見ての通りの隣同士だから、私がまだ小さい頃はよくこの家に預けられてたの」


 だから、自然と街の人と顔見知りになる機会は多くなり、結果として、あの商店街の店主たちや、地元の農家の人間の顔と名前は一通り頭に入っている。


 「でも。あの人たちはここの神社と、神主の壱月おじさんに用があって来ていたんだし。――私は、この家の人間じゃないから」

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