疑惑
「ふはぁ、満足、満足!」
定食屋の暖簾をくぐる梓馬の肩の上で、ぱんぱんに膨れた腹をさする棗に、彼は呆れたようなため息を吐いた。
「あれだけ食えば、そりゃあ満足だろうよ」
結局梓馬の分のあんみつを全部平らげた棗は、彼のパーカーのフードに潜り込んで、それをハンモック代わりに中で満足げに丸まった。
定食屋を出てすぐの通りを渡り、路地に入った二軒目ん、その暖簾は下がっている。
「らっしゃい!」
引き戸をからりと開ければ、すぐに中から威勢の良い声が飛んでくる。
「……すいません、島田屋さんから出前を預かってきたんですけど、――先代の様子はいかがですか?」
「おお、真弓ちゃんか。……悪いね、爺さんなら二階に居るから、持ってってやってくれねえかな? ちょっと手が離せなくてよ」
「……分かりました、お邪魔します」
客の入る表のスペースの内装こそ、ネタを入れる冷蔵機能のついたガラスケースを備えたカウンターに、2人がけのテーブル席、そして奥の座敷と、食卓がいくつも無造作に並べられていた定食屋とは異なる装いだが、奥の厨房は定食屋とほぼ同じ作りになっている。
真弓は梓馬を引き連れ、厨房の奥にある階段を上がり、二階の和室の障子をぽすぽすノックした。
「……小野寺さん、食事、持ってきましたよ」
「――おう。……悪いな、そこへ、置いといてくれ」
中から、張りのない弱々しい声が返ってくる。
ほんの半年前まで寿司屋の大将として元気に働き、声を張っていたというのに、それがまるで幻であったかのような元気の無さだ。
そろそろと静かに障子を開けると、ぼうっと無気力にテレビ画面をじっと眺め続けるやつれた老人の姿があった。
「……じゃあ、ここに置いておきますから。冷めないうちに、食べてくださいね」
半年前に比べて嘘のようにやせ細った体に、真弓も心配になって、ちらりと梓馬を振り返った。
「――間違いないな。あの精気の減り様は尋常じゃない。間違いなく、何ものかに精気を奪われたんだ」
もちろん、人間に人の精気を奪うなんて芸当は出来ない。
「学校の一件との因果関係は不明だが、精神に働きかける能力を有しているという共通点がある。……もう少し、探ってみるべきだろうな」
そして、この事件――“柏神社参拝客心身衰弱事件”に共通している事項は、文字通り、既に明白だ。
「まずは、社の主を問いただしてみるか」




