狩人のお仕事
花びらの奔流が、彼の体に触れる直前、彼の瞳が赤く光った――かと思えば次の瞬間にはその姿がすうっと溶けて消える。
寸前まで彼が居た、今は何も無い、ただ闇があるだけの空を花の刃が切り裂き、奔流が竜巻のように渦を巻いた。
「俺はこの国の組織が定めた規則に従い、穏当に生きている。規則に従わぬものを狩る狩人として働き、真っ当に報酬を得て食いつないでいる」
彼の姿の見えない空間に、彼の声だけが響く。
「しかしお前は、自分で“見守ってきた”と言った学園の生徒を傷つけた。――これは、組織の規則で禁じられた行為だ」
先程まで彼の姿があった、今は花びらが渦を巻くそこから、空を切る燕のような速さで声が移動していく。
「――よって、狩人の権限にてお前を捕らえ、組織に連行する」
カカカカカカッ、と、短剣が地面に突き刺さる音――。
その音が、真弓の耳に届くのと、彼の姿が闇の中から突然、ふわふわと宙に浮く童女の背後に現れたのはほぼ同時だった。
その彼もまた、正体の無い地面に足を着ける事なく、宙に浮いている。……と言うより飛んでいる、という方が正しいだろう。
いつの間にか彼の背にはコウモリの皮膜に似た翼が生えていた。
「――っ! 何をするっ、無礼者!」
叫ぶ童女の足元、彼が投擲した短剣が6本、刃先が数センチ程くすぶる地面に埋まっている……が……もしや、先ほど埴輪相手にしてみせたように、彼女をこれで貫くつもりが狙いを外したのだろうか?
いや、もやもやした闇に透けて見えるあの赤い色は、間違いなく――血だ。
しかし、彼女の肌はおろか、身に着けた衣さえ、傷つき裂けた様子は皆無。
では、あれは――?
じわじわと、刃から地面へ赤い色が染み出していく。――赤い色が、決められた道筋をなぞるように広がっていく。
6本全ての短剣から広がった赤い線は正円を描き、その内部に更に正三角形を二つ組み合わせた六角形――籠目を描く。
それは、まるで……
(魔法陣、みたいな……)
ちょうど彼女の足元を中心に描かれたそれが、完成した瞬間、ぽうっ、と青白い燐光を帯びた。
その光の中に、どすんと音を立てて梅の精が尻餅をついて落ちた。
「何じゃ、これは! 動けぬぞ!」
イヤイヤをするように必死に暴れるが、見えない糸で戒められているかのように、光の円の中から出られずにいる。
「こらっ、このクソ餓鬼めが、さっさと離さぬか!」
「……こら、随分と口の悪い姫君やなぁ」
棗が呆れたように呟く。
――いつの間にか、数多いた埴輪たちの姿も消え失せていた。
「それで、怪我は?」
多種多様な悪態をつく彼女を綺麗にスルーして、梓馬は不機嫌そうな様子で、へたりこんだままの真弓の前に膝をつき、先ほど答えられなかった質問を再び投げかけた。
答えを待つ僅かな間にも、彼の目は真弓の頭の先から足の先まで、じっと観察するように眺め回す。
「血の匂いがする。どこを怪我した?」




