救世主
埴輪たちと似た、ひんやりと冷たい感触。
ただ、冷たいだけではない。魂ごと凍らされてしまいそうな冷気が全身を包み込む。
ぐいぐいと、その白くか弱そうな外見からは思いもよらない力で、真弓の頭を地面に押し付けた。
――闇の深淵に、ずぶりと後頭部がめり込む。肩が、背中が、呑み込まれていく。
「そなた……が、……の、望……」
どうしようもない絶望感に襲われ、真弓は咄嗟に目を瞑った。
「――離れろ」
――と、突如、カカカッと地面に杭を打つような音が連続して聞こえると同時に、聞き覚えのある声が割って入った。
「俺は、組織『夢路の導き』所属の狩人、桐生梓馬だ。――人の世を無意味に騒がせ、不必要な被害を出した咎で、お前を捕縛する」
目を開ければ、懐から取り出した手帳に描かれた紋様を掲げ、まるで警察官の様に言い渡す彼の姿が目に入った。
「無事か? 怪我は?」
梓馬は油断なく童女を睨みながら、ちらりと一瞬だけこちらに視線を流して尋ねた。
だが、恐怖で喉が凍りつき、声がうまく出ない。
「邪魔……者、は、排……除」
童女が、ふわりとその場で浮き上がり、真弓や棗の拘束に参加していない埴輪も、ジリジリと梓馬との距離を詰めていく。
だが、梓馬に動じる様子は無い。
「離せと、言ったはずだ」
彼は冷酷に言い放ち、懐に入れた手を素早く抜き打ち、何かを投擲した。
キラリと光る物が、今しがた聞いたのと同じ音を立てて、真弓のすぐ傍の地面に突き刺さった。
見れば、細身の鋭い短剣が、真弓に取り付いていた埴輪を貫いていた。
剣に貫かれた傷口から、しゅうう、と音を立てて白い煙が上がると同時に、まるで蒸発するようにそれの姿が掻き消え、真弓は体の自由を取り戻した。
「――妾の配下を、よくも傷つけてくれたな、貴様!」
一際濃い梅の香りが強い風とともに波状に広がり、童女が叫んだ。
「臭う、臭うぞ。妾が大事に見守ってきた土地を荒らした外国の妖の匂いじゃ。そなた、この国の妖ではあるまい?」
これまで、途切れ途切れの言葉しか口にしなかったのが嘘のように彼女は激高し、叫んだ。
「俺はこの国で、この国に生きていた物の怪の胎から生まれ、この国で育った。……俺が生まれる前に姿を晦ました父親ってのは確かに、外から来た吸血鬼だったらしいがな」
大量の、紅白入り混じる梅の花びらが、無数の刃のように梓馬に迫る。
「――だが、それがどうした?」




