元協力者
「菜津奈……か……?」
彼の前に立っていたのは、スクールカウンセラーの柚月だった。
しかし、何故彼女の名を彼が知っているのだろう?
いや、それより何故スクールカウンセラーが彼の名を知っている?
「――じゃあ貴方が、今回の事件を調べる為に派遣された、組織の狩人なのね」
真弓の驚きをよそに、彼女は更に驚くべき単語を次から次へと口にする。
「……誰、なの?」
“組織”に“狩人”――。
そんな言葉を当たり前のように口にする彼女は、一体……?
「――彼女は、かつての協力者や」
何やら訳ありらしい彼らを置いて、真弓は先に一階へ降り、自分の教室で棗が話す“事情”に耳を傾けた。
「主が、組織の狩人見習いを卒業して、初めて担当した事件。その時、今回みたく協力を求めた相手、それが彼女やったんや」
昼食で騒がしい学食の方を眺めながら、棗は痛みを堪えるような顔をした。
「何せ、初任務や。わいも主も若かったしなぁ。色々張り切りすぎて、空回りしてもうたんよ」
がちゃがちゃと、賑やかな音がここまで響いてくる。
今日見学に来た中学生とその保護者が、学食の味を確かめたら、今日の説明会は終了で、臨時の手伝い要員である真弓は、後片付けに残る委員たちより一足先に下校しなければならない。
「彼女、足の片方を失くしとるやろ? ……あの足を喰い千切ったんは、そん時わいらが仕事で追っかけとった奴なんや」
がちゃがちゃ、がちゃがちゃと、普段にも増してうるさい。
「組織の規定で、協力者の安全に気を配るんは絶対の義務になっとる。それを、危険に晒した挙句に大怪我を負わせてもうたんや、当然、主にも相応の罰則が与えられた。けどな……」
慣れない者が多いせいか、それとも見学者の中に報道関係者でも混じっていてトラブルにでもなっているのだろうか?
「その一件に、主は与えられた罰則以上に深い後悔を抱えとる。……そのせいで、あれから主は一切、協力者を雇おうとはせんかった」
「え、でも……」
「人間――特に女子供はか弱い、守ってやらなあかん存在で、決して危険な任務に利用してええ存在やないと、主はそう言うてなぁ。今回も、説得するんは難儀したわ」
がちゃがちゃ、がちゃがちゃ。音はどんどん大きくなる。
「嬢ちゃんは、主のお眼鏡に適った唯一や。……できれば、今回限りの仮契約やのうて、本契約を交わしてくれたら、わい、すごぉく嬉しいんやけどなぁ」
「……何なの、その仮契約とか本契約って」
その質問に、待ってましたとばかりに棗が答えようと口を開けるより早く、がらりと少々乱暴に教室の後ろの扉を開けた者が居た。
彼が戻ってきたのか、それとも仕事をサボっているのが教師に見つかったのか――。
口から飛び出しかけた心臓を必死に飲み下し、真弓は後ろを振り返った。
「……ねぇ、棗。あれ、何に見える?」
「――骸骨と、人体の標本模型やな。あとは、ナントカいう彫刻……か?」
「うん、ダビデ像だよね。美術室にあった、石膏のレプリカの」
「ほんなら、骨格標本と人体模型は理科室か? ……まぁ、お約束ではあるけどなぁ」
振り返った真弓の視界に映ったもの。
残念ながらそこに居たのは、教師でも、ましてや梓馬でもなく。
――それどころか、人ですらなかった。




