現場検証
「随分と、雰囲気が違うな。装いも……。よく見なけりゃ違う場所だと思いそうだ」
梓馬は、3階建ての鉄筋コンクリート造りの後者を見上げてぼそりと呟いた。
「そらそうやろ。だって主、一体あれからどんだけ時が経っとると思うとるんや?」
今日の棗は梓馬のパーカーのフードに納まり、そこから顔だけ出して、呆れたように小さく呟き返した。
「……もう、無駄口叩いてないで、急いでよ! いつもより人は少ないけど、それでもいつ誰が来るか分からないんだから! 見つかって、言い訳考えなきゃいけなくなったら面倒でしょ!」
真弓はそわそわと落ち着きなく彼らを急かすが、二人は落ち着いたものだ。
「慌てるな。俺は半径1km以内の音なら全て詳細に聞き取れる。人が来れば、すぐに分かる」
確かにそれは先日己で体験していたから、あれを思い出した真弓は一応納得はしたものの……。
「……ここまで緊張感が無いのもどうなの?」
ため息を吐きながら、第二体育館へと彼らを案内する。
第一体育館の入る棟の向かい、それより少し小さな3階建ての建物。
1階は学食と購買が入り、2階がダンス部や新体操部、剣道部などが使う第二体育館になっている。
第一体育館に比べ、面積は狭いが、左右の壁には手すりが設置され、正面西側の壁には大きな窓、そしてその対面には壁一面に鏡が設置されている。
その、壁一面に貼られた幾枚かの鏡のうち、中央付近の一枚を掌でなぞりながら、梓馬は真剣にそれを検め始めた。
「間違いない。“道”の気配が残っている。……だが、ここが直接異空間の入口になっている訳ではなさそうだ」
「……どういう事?」
「ここは、ほんの一時、条件が揃った時にだけ開く、裏口みたいなものだ。――噂の文言からすると、“夕日”というのが鍵を握っていそうだが」
言われて窓から空を見上げれば、今はまだ太陽がちょうど空の頂点へ達したばかり。
ここに夕日が差し込む時間帯まではまだまだ時間がある。
「……じゃあ、取り敢えず今は次に行く?」
「――そうするべきだろうな」
続いて、同じ建物の3階へ上がる。
「……ここが、生徒会長が居なくなったっていうトイレ――なんだけど……」
場所柄、生徒会関係者以外、滅多に使う者の居ないトイレだが、トイレの“花子”さんと言うのだから、勿論ここは女子トイレである。
しかし、彼は何でもない顔で当たり前のように、赤い丸と二等辺三角形で描かれた人型の記号が掲げられた扉を押し明け、躊躇いもせずに中へ踏み込んだ。
(ま、まあ調査が目的なんだし、どうせ今は誰も居ないはずだけど……)
「――ここか、問題の個室は?」
彼は、真弓が言うまでもなく真っ直ぐ一番奥の個室へ向かい、扉を押し開けた。
「今は問題なく開くようだが」
少し古い型の洋式便器にも、特に以上は無さそうである。
「うん、でもね……」
真弓は、彼の脇から腕を伸ばし、開け放たれた扉をコンコン、と軽く叩いてみせた。
すると――“コンコン”、と。
扉の向こうから、確かにノックの返事が――




