怪異の解
「……何?」
「あの場所に居ったんは、……少なくともピアノ鳴らして人を脅かして喜んどったんは雑鬼たちやった。ちっこい連中が鍵盤踏み鳴らして喜んどっただけやった」
大した力を持たないそのような輩であれば、棗だけでも十分対処は可能だった。
ちょっと説教してやれば、もう、過ぎた悪さはしなくなるだろうという、その程度の――。
「けど、あの絵から伸びた手は別モンや。それまで、全く気配すらも無かったはずやのに、突然出てきよった。……まるで、どこかの異空間から次元の壁を突き破りよったみたいにな」
「……異空間?」
棗の言葉に真弓が反応する。
「……そう言えば、梅高の七不思議の一つにもそういうのがある。学校のどこかに、異界に繋がる扉があるんだって」
「行方不明になった2人、まだ見つからんのやろ? こら、もしかすると……」
「……あの手に捕まって、異空間に引きずり込まれた?」
まだ現場を訪れていない、第三の事件のあった第二体育館の鏡に纏わる噂は、体育館の壁面にズラリと並ぶ大鏡のうちの一枚を一人で見ると、たまに自分の姿が写らなかったり、全く別のものが映る事がある、というものと、もう一つ。
「体育館に夕日が差し込む時間帯に、その鏡の前に居ると、鏡の中に引きずり込まれる……って……」
そして先日の、生徒会長が行方不明になったトイレの噂は、『トイレの花子さん』。
――学校の怪談としてはメジャー級の話で、この梅高のそれも基本的には他と大差なく、誰も居ないはずの個室の鍵が閉まっていて、ノックをすると返事があるとか、その個室に入ると、どこかから女の子のすすり泣きが聞こえてくるとか、たまに用をたした後で扉が開かなくなるとか、そういうもの……なのだが。
「最後の、扉が開かなくなる、って話に、梅高特有のおまけがあって、トイレの便器から手が伸びて、中に引きず込まれる、って……」
「手……。モロまんまやな」
「それに、第二の事件のプールだって、“誰かに足を引っ張られる”って事は……」
「――確かに、高位の妖の中には、異空間を作り出す能力を持つものも居る。その異空間の主が主犯である可能性は高い」
「ああ、おそらく噂の前半部分の大して害のない部分は、雑鬼たちの悪戯やろ。……けど、後半部分の笑えん話については、そいつの仕業やと、わいも思う」
「雑鬼たちの悪戯は厳重注意で済ますとしても、主犯は捕らえて組織に連れ帰り、刑務に引き渡すべきだろうな。――よし、明日は頼んだぞ」
真弓は、静かに頷きを返した。
でも……何故だろう。
その瞬間、無性に明日が待ち遠しいように思えて――。




