真弓の実情
そんな会話を交わした週末が明けた、月曜日の朝。
「……うそ、何これ?」
今日はいつもと同じ時間に登校してきた真弓は呆然と呟いた。
「こういうの、よく昼のテレビで見いひん? ワイドショーとか……」
普段は、登校してくる生徒たちと、風紀指導に立つ当番の風紀委員と生徒指導の教師以外居ないはずの門扉の前にずらりと並んだ人、人、人――。
そしてその合間に物々しく黒光りするカメラがたくさん。
「すいません、お話聞かせて貰えませんか!」
必死に制止する教師をよそに、マイクやICレコーダーを手にした人間が、生徒にそれを突きつけるようにして差し出し、何か盛んに答えを求めている。
その横ではカメラの前に立ち、「ここが今噂の“七不思議事件”が起きている、私立梅宮学園高等学校、その正門前です――」とリポートするアナウンサーも居る。
――マスコミだ。
彼らが何を求めてここへ来たかは明白だ。
「……やっぱり、あれだよね。七不思議事件の取材、だよね」
「このタイミングや、それしかあらへんやろ」
人の波の中を、記者やリポーターを避けて門をくぐり、普段なら何と言う事のない距離にあるはずの下駄箱に“ようやく”辿り着いたところで、真弓は突然後ろから声をかけられた。
「ねえ、ちょっと」
声音に含まれた刺を隠そうともしない冷たい口調。
「あんた、今もまだ彼の実家でバイトしているの?」
声の主は、真弓がよく見知った相手だ。
「私、この間も見たよ。似合いもしない巫女服着たダッサイ女が神社の掃除をしてるの」
「この子がいくら掃除したところで無駄なのにね。掃除してる本人がまず、一番の粗大ゴミなんだから」
その後ろから、取り巻きの女子たちがこぞってせせら笑う。
「いい加減、彼の迷惑になってるって気づいたらどう? さっさと辞めろって何度も忠告してあげてるのに、何でまだ続けてるワケ?」
――迷惑、どころか。実際にそう仕組んだのはその“彼”自身だ。そして、迷惑しているのはむしろ真弓の方なのだと、言ってやれたらどんなに楽だろう?
◆ 言い返す
◆ 黙って耐える
……そう、思いながらも、真弓は嵐が過ぎ去るのを耐え忍び、じっと黙って俯く方を選ぶ。
言ったところで無駄なのは分かっている。
誰も、その真実を信じようとはしないのだから――。
「な、何や? これっていわゆる修羅場ってやつか? お嬢ちゃん、もしかしなくとも……虐められとるんか?」
こそっと制服のポケットから這い出た棗が、真弓の肩に乗り、こしょこしょと耳元で囁いた。
人前で堂々と出てきた棗に、見つかったらどうするのかと一瞬大いに慌てた真弓をよそに、彼女たちの誰も彼に気を留める様子もなく、罵りの言葉を吐き続ける。
「言うたやろ、わいの姿は普通の人間には見えへんのやって」
確かに聞いたが、実際にその事実を目にした真弓は改めて納得し、
「……別に、イジメって程大層なものじゃないよ。ただの、つまらない嫉妬ってやつ」
感情の欠け落ちた冷めた声で彼の問いに答える。
「……私の幼馴染みが、私ばっかり構うのが気に入らないんだってさ。……私は彼のこと、これ以上無いってくらいに大ッ嫌いなのに――ね」
目の前の女子らに気取られぬよう小さく吐き出したため息に乗せ、真弓はそう吐き捨てた。




