吸血鬼という生き物
今日は、土曜日。週休二日制の学校は休みだ。
土日祝日及び長期休暇中に限り、真弓はアルバイトをしている。
「由緒正しき巫女装束の乙女! やっぱこれに限るやろ!」
うきうきと浮かれる棗に梓馬は頭を抱えた。
「……あの、ところでそろそろ中に入りませんか?」
掃除が一段落したところで、真弓は二人に声をかけた。
そう広くもない境内の、参拝客が出入り出来る場所はとても狭く、落ち葉の季節でもない今の時期の掃除はあっという間に済む。
掃除が終われば、あとは時間まで社務所でお守りなどの授与所の店番をしていればいい。
「……私、そろそろ限界で――」
「ん? 限界って、何が……」
怪訝な顔をした梓馬がこちらを振り返るのを待たず、真弓の視界が一瞬、ふっと暗転した。
ぐわん、と一瞬だけやたらと頭が重たくなって、体のバランスが崩れる。
「嬢ちゃん!?」
一瞬ふらついた体が、強い力で引き戻される。
「おい、大丈夫か!?」
すぐ間近で、低い男の声がする。
「――っ!」
真弓は、思わず息を呑み、悲鳴をのどに詰まらせた。
(……大丈夫、彼は、あいつじゃない)
必死に頭の中でそう何度も唱え、自らを落ち着かせる。
「……大丈夫、です。ちょっと、貧血でふらついただけだから。――いつもの事なんです。日の下に長く居ると、いつもこうなるの」
……それにしても。
「……貴方は、大丈夫なんですか?」
彼は、吸血鬼だと言っていたはず。
――吸血鬼の弱点として有名なのは、日光、ニンニク、十字架、あとは流水や聖水といったところだろうか。
「ああ、吸血鬼の弱点てアレな、大半が全くのデタラメや。……まあ、日光に強うないのは本当やけど、それかて日ぃ浴びたからって灰になるわけでもなし、UVケアしっかりしとったら、夏の海にでも行かん限りはそう問題にはならん。十字架も、流水も平気。ニンニクも、単純な好き嫌いはあっても致命的な弱点にはならへんしなぁ」
しかし、棗がそれをあっさり否定した。
「ついでに言えば、人より寿命は長いが不老不死ではない。治癒能力は高いが、心臓や脳をやられれば当たり前に死ぬしな」
「吸血鬼っちゅうのはな、人より優れとる部分も多いけど、完全無欠のモンスターでもない。なかなか複雑な生き物なんや。……特に、主はな」
そう、意味深に棗が呟き――




