“外来種”
「――と、いう訳でやなぁ。昨日のトコは目星い成果は得られんかったんや。ほんま、すまん」
翌日、その成果を報告する時も、棗はしゅんとしたまま申し訳なさそうな顔でそう言った。
「あんまり気を落とすな。一日二日で解決出来るような事件など、そうは無い。お前も知っているだろう? 確かに人外のものの仕業であると分かったなら、一日目の成果としては上出来だろう」
梓馬は、しおしおと項垂れる自らの従者をちょいちょいつついて慰めながら、懐から手帳を取り出す。
「それに、俺も一日遊んでいた訳じゃないからな。昨日は少し、調べ物をして来た」
さかさかと掃き掃除をする真弓の横、さんさんと陽光の降り注ぐ朱い鳥居の下で、彼は悠々と手帳を開き、書き留めた内容に視線を落とした。
「あの学校の理事の一族というのが、どうやら皇族の血を引いているらしい」
「ははあ、天照大御神の末裔っちゅう事か。道理で今時珍しいくらいぎょうさん色んな気配がすると思うてたけど……成る程、そういうワケやったんやな」
「……ちょっと待って。“ぎょうさん”って、何、犯人は単独犯じゃないの?」
何か良くないモノが外から入り込み、悪さをしているものだと勝手に思い込んでいた真弓は慌てて掃除の手を止め尋ねた。
「うぅん、確かにひとり、とは限らんけどなぁ。でも、連中はちゃうで。大した力も持ってへん、低級の妖や精霊の類や。よく言うやろ、八百万の神って」
棗は鳥居を見上げながら言った。
「皇族は、天照大御神の末裔だ。例え大昔に分たれた、現在では他人に等しいような血でも、その微かな気配に惹かれて集う物の怪の類は遥か昔から存在する」
「天照大御神はこの国の最高神や。例えひと雫でもその血を引いておるなら、滅多な妖は畏れ多うて手出しなぞでけへん」
棗の説明に梓馬も頷き、険しい顔で腕を組んだ。
「その皇族の血を引く者が守護する場所で悪さをするからには、余程高位の邪妖か、もしくはーー」
「――外来種、やな」
――外来種。
普通は、人が外から持ち込んだが故にそれが野生化した上繁殖し、その土地の固有種の存続を危うくし、果ては人にも要らぬ被害を招くものをそう呼ぶ。
有名どころを挙げれば、ブラックバスやアライグマ、ザリガニ……他にも数限りなく幾らでも名が出てくるが、どうやら外来種に頭を痛めているのは人間ばかりではないらしい。
「昔もな、たまには居ったんやで。遠路はるばる海を越えてやって来る物好きな妖がな」
だが、それはあくまで例外で、特に大きな問題に発展する事はまず無かった。
「けど、最近ではわいらの間でも“グローバル化”っちゅうのが進んどってなぁ。外国からぎょうさん、方々からのお客さんらがやって来るんや」
もちろん、真っ当な観光だけして帰っていくものが殆どではあるのだが――しかし。
「中には、悪さをする輩も居る。……戦争が終わってからこっち、狩人の仕事は増える一方や」
全くもってけしからん、と、一頻り憤った後で、棗は改めて真弓の装いを上から下までじっと眺め、ニヤリと笑った。
「――にしても嬢ちゃん、なかなか似合うとるやないか、その格好。なぁ、主もそう思うやろ?」




