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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第2章 協力者のお仕事
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安倍家の朝

 ――真弓の朝は、早い。

 スマホのアラームで目を覚まし、まずはサイドテーブルの天板の上を探って眼鏡をかけ、部屋の明かりをつける。

 夕べ脱ぎ捨てた制服を着直しながら時計を見上げれば、針は普段より更に一時間早い時間を指している。

 「棗、起きて」

 いつも、真弓がゲームをするときに使う座布団の上に丸まって眠る彼を人差し指でつつく。

 もふもふふわふわと暖かい、触り心地の良い毛皮の感触に、もっと構っていたくなる。

 起こしてしまうのが勿体無いと思える程に可愛い寝姿なのだが、ここで無駄に時間を費やしては何のために早起きしたのか分からなくなってしまう。

 「お……、おお……、あ、あと……5分……」

 むずがる彼を掌に乗せ、強制的にキッチンへと連行する。


 冷蔵庫を開けると、夕べ入れた炒飯が昨日のまま残っている。やはり、昨夜も父は帰宅しなかったようだ。

 真弓はそれをレンジに押し込み、温める。


 更に冷蔵庫からタッパーやジップロック付きの密閉袋を取り出し、中身を少しずつ弁当箱に詰め合わせ、まとめてレンジに入れて温める。

 その隙に野菜を洗い、フライパンに油を垂らし、ハムを炙り、卵を割る。

 

 ミニトマトと茹でたブロッコリー、豚肉の煮物と五目豆、白ご飯に梅干。

 いわゆる女子的弁当には程遠い、大変シンプルかつ地味なメニューだが、これで弁当の支度も整った。

 最後に人参、きゅうり、大根を手際よくスティック状にカットし、タンブラーに盛り付ける。


 程良く焼けた卵をチャーハンの上に乗っけて、食卓へ運ぶ。

 「おお……、何やええ匂いが……」


 テーブルの上で尚も丸まったまま背中を呼吸に合わせて上下させていた棗が、鼻をひくひくさせつつふんふん鳴らし、ようやくその大きくてまん丸な黒目を開いた。

 ふあぁ、とあくびをする口元から覗く、げっ歯類特有の鋭い2本の前歯。

 その様は、実に実に愛らしい。

 スティック人参の先っちょで、その鼻の下の口元をつんつん突くと、「へっくしょっ」とくしゃみをする――その様も、これまた大変癒される愛らしさだ。

 まだまだ眠そうな顔のまま、差し出された人参を前足で器用に掴み、鋭い歯でショリショリ齧り始める。もくもくと頬を膨らませ、もぐもぐする様はもうたまらない。

 つい、自分の食事をそっちのけで棗の食事にかかりきりになりそうになるが、ふと思い出しては慌ててレンゲに掬った炒飯を口に運ぶ。


 「いつもこんなに朝早いんか?」

 棗が見上げる食堂ダイニングの掛け時計は6時を少し過ぎた所を指している。

 「……さすがにこんなに早いのは今日だけだよ。……って言ってもまあ、せいぜい一時間くらいしか違わないけど」

 朝食の後片付けを簡単に済ませ、洗濯物を部屋に干し、燃えるゴミを詰めたゴミ袋を手に家を出た。

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