『新・チーム槐』始動
驚く真弓がこぼした呟き。
「うぅん、飴ちゃんの、って言うよりは主の力っちゅう方が正確やな。こいつは主の力を術で固めたもんやからの、せやから、飴ちゃん舐めて得られる力は、全て主と同質の力や。種類によってその同調率を段階的に調整してある、っちゅうワケやな」
それを拾った棗が説明してくれる。
「吸血鬼は、人間より優れた感覚と身体能力を有する。お前が今感じているそれが、人外のものの力の一端だ」
「吸血鬼に限らんと、世には結構ぎょうさん人でないものが居るんや。大概のものは組織の規則に従うて、極力人に迷惑かけんよう生きとるんやけど……」
「いつの時代、どこの世界にも規律からはみ出したがる鼻つまみ者というのは存在するものだ。……今回の事件の犯人のようにな」
「ほんで、そういうならず者を引っ捕えるんが、わいら狩人のお仕事っちゅうワケや」
「組織の規定により、狩人である俺自身が協力者に危害を加える事は厳しく禁じられている。また、協力者の身の安全を保証する義務もまた、規定で定められている」
彼は、契約書を再び折り目正しく折り畳み、パーカーの胸ポケットにしまった。
「棗、お前は今夜から彼女と行動を共にし、彼女の身の安全を図り、調査の補佐をしろ」
「へ? そりゃぁ構わんけど、契約手続きはどないするつもりや?」
「……気は進まないが、俺がやっておこう。――もう、あの時の二の舞は御免だ」
ほんの一瞬、互いに不満げな顔を見合わせた後で、二人は同時にため息を吐いた。
「――ほんなら、『新・チーム槐』、本日始動やな! 嬢ちゃん、宜しゅう頼んますわ」
そんな空気を振り払うように、ひょいっと梓馬の頭を蹴って真弓の肩に飛び移り、棗が右前足を突き出した。
「改めて。わいの名は棗。姓はあらへんから、棗って呼んでくれたらええ」
帰る道すがら、真弓の制服のポケットに納まった彼は、実によく喋った。
「ほんで、わいの親はどっちもモモンガの九十九神なんや。あ、九十九神ちゅうのは、長く生きた生き物が妖怪化した上で、和御霊になったモノを言うんやけどな? せやから、わいはモモンガの精霊として生まれてん」
児童公園から自宅まで、歩いて5分。――幸い、今日はバス停に人影はない。
「せやから、普通の人間にはわいの姿は視えへんし、声も聞こえんはずやのに、嬢ちゃんには初めからわいの姿が視えとった。こりゃ、何や運命を感じんか?」
要らない客が来る前にと、急いで玄関の鍵を開け、さっと中へ滑り込むと、即座にしっかと施錠し直す。
「ここが嬢ちゃんの家か? 二階建ての一軒家とは、今時豪勢やなぁ」
感心したようにピクピク耳を動かし、頻りに周りを見回してから、くんくんと匂いを嗅ぎ、はて、とばかりに首を傾げた。
「それにしても何や暗ぁないか? いや、そらもう夕方やから暗いんは当たり前やろうけど、そうやなくて……。それに、何や妙に静か過ぎやせんか?」
人の気配は皆無。雨戸のついた大きな窓は全て閉め切られ、明かり一つ灯っていない家の中はがらんとしていて、こんなにも暑いのに、なんだか寒々しい。
「嬢ちゃん、一人っ子か? 親御さんは……」
「……お母さんは、私を産んだその日に亡くなったんだって。お父さんは、仕事で殆ど帰って来ないから、今この家に居るのは私……と、棗だけ」




