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君の、隣で。  作者: 彩世 幻夜
第1章 狩人の協力者
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飴と鞭、効果と副作用

 「――例えば、これ」

 一度真弓の掌に乗せた小瓶を再び持ち上げ、彼は瓶を揺すってそれが見えやすいよう傾けた。

 「一番色の薄い、スペード柄のこいつは、視力・聴力・嗅覚・触覚といった五感をより鋭くする効果がある」

 濁った半透明の赤色の中に、より濃く黒に近い赤色のスペードマークが描かれている。

 他にも数種類、違う色柄の飴玉がある中で、彼はそれを指して言った。

 「……その代わり、飴玉キャンディの効果が切れた後で、疲労感やだるさが残る」


 くだんのスペード型にハート型。星型、魔女の三角帽子にコウモリ。どうやらマークは全部で5種類。


 「種類によって、得られる効果はそれぞれ違う。だが、飴玉キャンディの効果が強ければ強いほど、その効果が切れた後の副作用リスクも強くなる」

 一つ一つ丁寧に、それぞれの飴玉キャンディのこうかと副作用リスクについての言葉を並べていく。


 「……確かに、主が言うんも一理ある。けど、本番でいきなりっちゅうのもどうかと、わいは思うんやけど?」


 ――どちらも、正論。要は、真弓の選択次第という訳だ。


 ◆ 試す

 ◆ 試さない


 示された、二択。


 飴玉キャンディを舐めたら、悪を成敗する正義の味方ヒロインに変身できる。

 ――まるで幼い子ども向けのアニメの様な話だが、実際はやっぱりアニメの世界の様に甘くはなく、現実の苦さも伴うらしい。


 梓馬と棗の顔を交互に見比べ、真弓の手に戻された瓶を見下ろして、一度目を閉じる。

 ……こういう局面で、消極的な選択をすると、ろくな結果にならないと、大体相場は決まっているのだ。――ゲームの中の話ではあるけれど。


 えいやっ、とばかりにキュポンと音を立ててコルク栓を抜き、瓶を傾け目的のキャンディを選んで口へと放り込んだ。


 ――とたん、甘酸っぱい、ピーチの味が口腔に広がる。


 でも、ちょっと安っぽい味……? と、そう感じた瞬間、ガツンと脳まで衝撃が伝わりそうな激しさで視界が歪んだ。

 まるで、度のデタラメなレンズを通して見ているような……。

 真弓は慌てて分厚いレンズを嵌め込んだ黒縁メガネを外し、裸眼の視界に映るその光景に思わず息を飲んだ。

 「……うそ」


 酷い乱視と近視で、メガネを外したらぼんやりとした光と色の塊しか見えなくなるはずなのに。


 「まさか、メガネをかけてる時より良く見えるなんて……」

 通りの向こうの看板に書かれたごく小さな文字までばっちり読める。

 動体視力も上がっているらしく、行き交う車のドライバーの顔や装いの細部までしっかり認識できる。

 息を吸い込めば、先程通ってきた商店街の、花屋の店先にあったコスモスの香りや、その先の精肉店に並んでいた惣菜の美味しそうな匂いが嗅覚を刺激する。

 「……うそ、だって花屋も肉屋も、歩けば5分はかかる距離にあるのに?」

 普通だったら、こんな離れた場所でその匂いに気付けるはずがない。

 鳥の羽ばたきの音、往来を行き交う人々の足音まで鮮明に聞き分ける事もできる。

 意識的にピントを合わせれば、商店街で交わされる威勢の良い掛け声や、奥様方のお喋りまで詳細に聞き取る事ができる。

 今まで狭く閉ざされていた世界が、一気に広がったような。

 逆に自分が一気に世界に近づいたような。

 まるで全く違う世界に顔を突っ込んでいるかのような気分になる。


 ――生まれてから十数年慣れ親しんだ場所、日常的に目にしている光景のはずなのに。 


 「……これが、飴玉キャンディの効果なの?」

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